⑬ 江戸時代中期の蒔絵ー一`輸出漆器と国内向け香道具の比較ー一のような空間におかれ,どのように組み合わされて鑑賞されていたかという具体的な研究は,国内外を問わず,未だなされていないのが現状である。本調査研究は従来の研究成果を踏まえつつ,今まで看過されがちな芸術作品と鑑賞,展示,および収納という問題にさらに踏み込む点で,意義深いものと思われる。また,ルドルフニ世の宮廷は,当時にあってはヨーロッパ随一の文化的中心地であり,来るべき17世紀美術の動向を牽引する数多くの芸術家がその庇護をもとめて宮廷に集まり,芸術上の刺激を受け各地へと旅立っていった。そんな中,ヤン・ブリューゲル(父)など以後の美術の展開に大いに貢献した実力ある画家も「デューラー・ルネサンス」の範疇に属する作品を残している。ルドルフニ世の宮廷におけるデューラーのオリジナル作品と「デューラー・ルネサンス」諸作品の享受様態とその関連性・複合性を解明することは,ひいては,デューラーの芸術が17世紀北方美術に与えた影響,あるいは,17世紀初頭における北方ルネサンス美術の評価といった美術史のより普遍的な問題にも一つの解釈を提示するものと考える。ルドルフニ世はデューラー以外にも,ピーテル・ブリューゲル(父)。クラナハ,ルカス・ファン・レイデンなど16世紀の北方画家の作品を収集しており,今後はこうした画家たちの評価基準の比較等を通じて,より広い文脈にルドルフニ世のデューラー・コレクションおよび「デューラー・ルネサンス」の様態を位置付けていきたい。研究者:京都国立博物館学芸課工芸室員永島明日本の蒔絵は16世紀以降,西洋人を中心とする海外の美術愛好家の蒐集対象となった。現在は漆工研究も各国でそれぞれに行われている。しかし,海外の研究者たちは日本国内の伝世品を熟覧する機会が少なく,自然,海外に伝わる輸出漆器のみを研究対象としている。これらの研究は西洋に於ける東洋趣味の文脈で語られることが多く,一方で存在する日本の研究の翻訳を下にした漆工史研究とは一線を画している。輸出漆器と国内向け漆器という同じ日本で制作された蒔絵の品がとかく別の文脈でしか語られないことについて,その原因を作品享受の背景が異なることのみに求め,当然としてしまえばそれまでである。しかし,海外の研究者が典拠とする日本国内の研究に輸出漆器を見る機会が少なく,また,日本には輸出漆器よりも美的に優れた多くの未-57-
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