japanになると黒色塗料に金で図を描く技法,すなわち,蒔絵を示すという事例もある。調査作品が存在する以上,それらの研究が優先されるのも自然である。とはいえ,輸出漆器も国内伝世品も日本の蒔絵師によって制作されたのであるから,より包括的な視点で漆工史を理解するためには,双方の研究が連関することが望ましいに違いない。つまり,輸出漆器を国内の漆工史全体の中に正しく位置付ける必要がある。本研究はそのような視点に立ち,江戸時代の蒔絵の歴史を,海外での享受のされ方との関連をも含めた大きな流れの中で捉えることを目的としている。特に研究の希薄な江戸時代中期の無銘の漆器を軸に調査を展開することによって,「調査研究の要約」にも示したように,これまで個々に扱われていたテーマを融合することを構想している。一般に幕末の浮世絵流出によってはじめてジャポニスムやジャポネズリといった文化的現象が起こったと理解されているが,それ以前から少なからず輸出されていた日本製の磁器や蒔絵を通じて,徐々に我が国に対する印象が形成されていったというのが,であろう。英語に限ってではあるが,日本を意味するJapanという固有名詞が一般名詞異文化間で交流する物々が双方の国々の物作りの現場にどのような影響を与えたのか,また物の交流が違いの文化や自己文化に対するイメージをどのように育んでいったのかといった大きな課題にも取り組んでいきたい。⑭ 《奥原家歴史美術資料》の分析と目録作成研究者:相模女子大学非常勤講師平井良直この調査研究は,古河歴史博物館所蔵《奥原家歴史美術資料》の目録(稿本)を完成させることを究極の目的とする。当該資料は,明治期に東京画壇で活躍した古河藩出身の女流南画家・奥原晴湖(1838■1913)および晴湖に終生近侍した門人・渡辺晴嵐(1855■1918)に関連する一千余点の奥原家旧蔵資料であり,その中核をなすのは,①晴湖旧蔵の模本・縮図類,②晴湖自作自筆の漢詩集,③晴湖自筆の摘要類,④晴湖旧蔵の和書・漢籍,ならびに,⑤晴嵐旧蔵の模本・縮図類であるが,粉本類①⑤だけに限っても,我が国屈指の質・量を誇る存在であるといってよい。その整理・分析によって,直裁的には以下の成果を目指している。(2) その画塾における教育の実態を窺う有効なデータを得る。(1) 関東南画正系の悼尾を飾る画家の生涯にわたる学画状況を知る。-58 -
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