鹿島美術研究 年報第19号
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性画家研究の第一歩として,島成園と木谷千種をとりあげる。成園の画家としての最盛期は大正9年頃までと短いが,若い成園の華々しい活躍は,大阪のみならず,国内の少女たちに絵を志す勇気を与えた。成園の師事した北野恒富門下からは,四夷星乃など多くの新進女性画家が輩出された点も注目に値する。木谷千種の方は,東京で池田蕉園に師事した後に帰阪し,成園と同時期に活動を開始した。千種は画塾「八千草会」を創設して女性画家育成に貢献し,大正末頃からは大阪の女性画家の中心的リーダーでもあった。日本の女性画家研究は,日本文化研究者のパトリシア・フィスター氏の著書『近世の女性画家たち』に先行例がある。同書は,近世に名を残した100名の江戸時代女性画家をジェンダー論の視点から考察する。しかし,日本近代美術におけるジェンダー論的視点をもつ研究は未踏の分野であり,個々の作家の略歴さえ正確なものがみられない。現代と密接に関わる近代女性画家研究は,今後ますます重要性を増していくと考えられる。どの時代にも,女性画家は確かに存在していたが,少数ゆえにマイナーな評価を受けがちであった。調査研究を怠ることで歴史から排除される危機を回避するためにも,彼女たちを正当に位置付けることは重要である。⑰ 古代ローマの私的地下墓所(3-4世紀)における図像主題の研究研究者:南山大学非常勤講師山田この調査研究の目的は,現在ローマで確認されている初期キリスト教徒の私的地下墓所(サン・セバスティアーノ,ドミティッラ,ヴィッビアのカタコンベ等に取り込まれた私的地下墓所,および,トレビオ・ジュスト,カーヴァ・デッラ・ロッサ,アウレリウス家の地下霊廟等の孤立的私的地下墓所,さらにヴィア・デイノ・コンパー二に見る特殊な小規模混交集団的地下墓所)に関して,現地において具体的な図像学的・地誌学的データを収集し,共同体の地下墓所とは異なって,その図像レパートリーの全体像と特殊性を明らかにすることにある。加えて,この私的地下墓所の図像コンテキスト全体の中に,前回,サン・セバスティアーノのカタコンベで行った調査研究によって確認された異教的図像主題(死者の魂の同伴者ヘルメス)の存在を新に位置付け,より広い視野から初期キリスト教徒による異教図像の解釈の可能性について考察したい。すなわち,未だ異教のなごりを強く残していた古代末期の混沌とした時代順-61-

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