}ヰ=に,初期キリスト教徒が,異教時代を通して長年慣れ親しんでいた図像主題をどのように継承し再解釈していったのか(あるいは再解釈しなかったのか),この異教図像の受容状況の一端が,この調査研究を通して明らかになるものと期待される。また,このように,今回,キリスト教共同体の「図像検閲」外に存在した私的地下墓所の図像を研究対象とすることから,教会当局や指導者層によって規制された図像主題からは知り得ない,当時のキリスト教一般信徒のより直接的な来世観や信仰を解明する上で,この調査研究が重要な意味を持つものと考えられる。⑱ 18 • 19世紀のヨーロッパにおける扇制作とその装飾の諸様相に関する研究研究者:神戸市産業振興財団神戸ファッション美術館神戸ファッション美術館の扇コレクション153点は,パリ在住のベシャール・ゴゼス・ジルベール氏の所有であったものを1991年から1992年にかけて一括入手したものである。同氏の先妻のライフワークとして収集されたコレクションであり,扇博物館の設立が構想されていたため,ベルニー・マルタンやガブリオレといった18世紀の希少な扇資料も含まれ,あらゆるヴァリエーションの様式や技法を用いた扇で構成された,バランスのとれたコレクションとなっている。当美術館での調査研究活動としては,このコレクションのデータ整理とともに,ヨーロッパの扇の歴史紹介を行うべく,素材・技法・装飾様式について調査し,可能な限りにおいて資料展示の際に研究の成果の発表に努めてきた。扇をテーマとした東西文化の交流,とりわけ日本を含む東洋と西洋の交流は非常に興味深い領域であり,この「小さな絵画」とも言うべき工芸美術品を通じて,その装飾表現の多様性について探求していくことは,文化史的にも美術史的にも意義あることと思われる。特に扇面において展開されてきた諸々の豊かな主題と様式を研究することは,扇の絵画的な魅力と生活文化の実態について,より一層一般の人々に知らしめることができるであろう。イギリスグリニッジのファン・ミュージアム,フランスのパリ市立扇美術館などは扇をメイン・コレクションとした特殊な美術館であるが,それらの研究学芸員や研究者との学術的な交流によって協同による扇展の開催が実現可能であるとも思われる。子云貝=木由美子-62 -
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