が伺える。この調査研究で目的とするのは,このような平安時代における「折枝散らし文」の総体的具体的諸相を把握し,その特質や様式的変遷を解明することである。この課題を解明することで,現状では「和様」として一括された平安時代の美意識を解放し,とくに11■12世紀における美術工芸作品の新たな研究の端緒を開くものと考えられる。申請者はこの平安時代「折枝散らし文」の大きな特色として,異なる季節に花開くはずの植物を一画面に散らし,咲き競わせることに注目している。この意匠はそのモチーフの類似から「花喰鳥」や「松喰鳥」などと同義と考えられがちである。しかし四季を尽くした発想は,この意匠の性格を考察する上で,重要な意味を持つと考えられる。また作品が実際に使用(披見)された儀礼空間を考慮するならば,折枝に付けられた棒物(ほうもち.ささげもの)や装束など,当時における総合的プロデュースを含めた新たな視点を禅入する必要がある。これまで純粋な装飾として捉えられてきた平安時代の「折枝散らし文」について,意味論と様式史からアプローチすることは,我が国における装飾芸術の再評価を促すものとして意義あるものと思われる。⑮ 佐賀藩鍋島家婚礼調度品の調査研究_杏葉紋付蒔絵作品を中心に_研究者:財団法人鍋島報放会学芸員佐藤朋子昭和50年代後半に荒川浩和氏,小松大秀氏,灰野昭郎氏によって全国規模での近世大名婚礼調度の調査研究が行われ,各地の婚礼調度類の存在が確認され,膨大な基礎資料が集積された。以後,婚礼調度類は美術工芸品としての高い評価を受け,その研究は進展しつつある。しかし数が纏まっていない,単に存在を知られていない等の理由から未だ調査に漏れている部分は多い。鍋島家が誂えた杏葉紋付蒔絵調度についても,現在その存在が確認されているのはほんの数例であるため,全国各地の鍋島家の縁戚関係をたどり,さらなる遺存例を確認しうる可能性は多分にある。唐草や家紋に見る蒔絵の様式変遷,近代から近世への制作状況をふまえた移り変わり,類型化した婚礼調度の果たした役割,他の蒔絵作品との意味合いの相違等を考察する上でも,ー大名家が誂えた婚礼調度という視点から,輿入先に伝来する遺存例を-68 -
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