の設計について書いた記事と、バルツァー著『日本の住宅』の書評、関東大震災をきっかけとして依頼されたであろう日本の住宅建築に関する新聞記事の3件だけが見出されるだけである。そのためにも、工作連盟資料館や遺族さらには関係者や日本側に残されている資料の発掘・調査が重要であると言える。中でも重要なのは、ムテジウス自身により「CopyBook」と記されている、日本滞在中の手紙の写しである。今回の調査では、この手紙の内容を基礎として、l)ムテジウスが日本滞在中に建てた建造物の調査(東京およびワイマール)2)ムテジウスが滞在中に訪問した場所や購入した美術品の追跡調査3)交流のあった人物の詳細調査、を中心に据え、ムテジウスの日本滞在の全体像をより明確に把握したいと思う。⑳ 西欧中世における世界認識と創造主賛美図に関する図像学的研究研究者:東京大学大学院総合文化研究科博士課程金沢百枝西欧中世は、十字軍や巡礼などイスラム世界との摩擦と交流によって、ヨーロッパ世界が外へ向かって開かれ始めた時代であった。世界情勢との共通性から、や「聖戦」などの言葉が飛び交う昨今だが、西欧中世という時代は、日本文化とはもちろん現代の欧米の価値観とは全く異なるパラダイムにあり、安易な比較は危険である。中世という時代において、異文化の交流や衝突による変化は、人々の世界認識にどのような影響があったのか、中世の人々はどのように自分たちの周りの世界を理解したのか、中世の人々が考えていた世界を明確に把握することが必要である。本研究は、美術作品や写本挿絵など図像資料を用いて中世人の世界認識を探るという新たな試みである。図像資料には、文書資料からだけでは読み取ることのできない情報が潜んでいると考えるからである。そして、異なる価値観をもつ世界に対する理解は、前述のような現代世界の諸問題を解決する突破口ともなりうるだろう。今もって来歴が謎に包まれているジローナの『天地創造の刺繍布』の制作背景の解明は、美術史学上大きな進展となるばかりでなく、創造主賛美図像の思想的背景が明らかになり、グレゴリオス改革など具体的な政治的・思想的変遷と結びつけることができれば、美術史学的にも中世史学的にも重要な成果となるだろう。「創造主賛美型マエスタス」という構図そのものへの着眼自体が新しい試みであり、成果が期待できる。75 -
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