鹿島美術研究 年報第20号
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本研究は、人々の世界認識法をいかに一枚の絵解きとして総括的な宇宙図に表現しているのかという図像学的な興味に端を発し、創造主賛美図に焦点を絞っているが、美術作品の中に描かれた中世の宇宙論、動物学、植物学、鉱物学など自然科学的な世界認識や歴史的認識など、さまざまな分野へと開かれている発展性のあるテーマであり、申請者の「中世の世界像研究」の一部となるものである。⑲ 江戸時代絵画史における中国道教系民間信仰の受容研究者:神戸市立博物館学芸員成澤勝嗣江戸時代の異国趣味といえば、現在の研究状況でいえば、オランダ趣味の方が圧倒的優位にある。しかしこれは、近代以降の美術史学が脱亜入欧政策の影響を多分に引きずっているためであり、江戸時代の現実を考えあわせれば、決して正当な評価がなされているとは言いがたい。実際には長崎貿易においても圧倒的に中国との交易が優勢であり、多種多様な文化が日本へ流入してきていた。本研究のテーマとする道教系の吉祥画も、いわば草の根的な民間信仰として長崎へ入ってきたものと思われる。もともとこうした民間信仰は、はっきりとした体系をもつものではなく、当初からあいまいなかたちで受容されたのであろう。確たる文献資料もなく、残された絵画作品から、その受容の実態を復元していかざるを得ない。こうした状況は、中国趣味があくまで趣味の域を出ることなく、学問的な体系と切り離されていたところから、近代につながることなく消滅したために生じていると思われる。今や、道教系吉祥画題は、それと認識されることもなく、意味不明瞭なものとなっている。その実態を、遺品・文献の両面から復元し、明らかにしていくことは、江戸時代の中国趣味の実像を見直す上で、有意義な作業であると考える。⑫ 大原美術館所蔵レオン・フレデリック作《万有は死に帰す、されど神の愛は万有をして蘇らしめん》について研究者:石橋財団ブリヂストン美術館学芸員福満葉子象徴主義と社会的レアリスムを折衷し、特異な世界を生み出したフレデリックとい-76 -

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