鹿島美術研究 年報第20号
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う画家については、先述した通り、ベルギーでもあまり研究が進んでいない。それだけに、早い時期に日本に渡ったためにベルギー本国でもあまり知られていないこの大作の調査は、作品研究・作家研究の両面において、国内のみならず、ベルギーにおける美術史研究にとっても有意義なものになるはずである。調査は、下記の観点および展望のもとに進めてゆきたい。①解釈宗教的・思想的・社会的・個人的な背景をふまえて考察する。世紀転換期における芸術と社会、芸術と宗教、芸術と戦争といった問題についてのひとつのケース・スタデイとして取り組みたい。②ポリプティックという形式この作品がまずトリプティックとして構想され、最終的には7枚組のポリプティックに発展したことから、創造のプロセスと作品の意味の変容について検証する。また、近代芸術におけるポリプティックおよび宗教画の問題も扱いたい。③図像的源泉および近代の裸体群像表現との関連ロダン《地獄の門》や同時代ベルギーの画家・彫刻家の作品との関連を想定し、19世紀末ヨーロッパにおける裸体群像表現の系譜の中に作品を位置づける。④児島虎次郎にとっての意味児島がなぜこの作品を購入したのか、彼にとってこの作品はどのような意味を持っていたのかを考察することによって、児島の芸術観・宗教観などを浮き彫りにすることができればと考える。また日本初の西洋美術館の構想において、この作品の購入が示唆するものを検証したい。⑤日本における受容すでに示唆されている、日本の「戦争画」の群像表現に影響を与えた可能性について検証したい。⑮ 奈良時代の塑像彩色面下層に見られる黒色について研究者:東京芸術大学非常勤講師矢野健一郎仏教美術における彩色は、外光を基本とした地中海的表現と異なり、石窟やお堂あるいは厨子のように光りの射さない閉ざされた空間で灯明や蝋燭のほのかな光を受-77-

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