鹿島美術研究 年報第20号
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⑮ フランシス・ベーコン(1909-1992)におけるネオ・ロマンティシズムの受容について20世紀の具象的絵画を代表するイギリスの画家フランシス・ベーコン(1909-92)は、さらに、将来的に彼らの作品をひとつの展覧会として提示する機会が得られれば、より広くその重要性を問うことができるのではないかと考えている。そしてそれが、これまであまりに一面的に捉えられてきた日本近代美術の全貌を探るひとつの手がかりとなれば、また大きな収穫であろうと考えられる。研究者:東京国立近代美術館研究員保坂健二朗《傑形図の基部にいる人物像のための三習作》(1944)で知られているように傑形図、三幅対など伝統的な主題と形式を用いて、「神は死んだ」と言われた後に生きる人間の実存的苦悩を描いたと言われている。そのベーコン作品の図像的源泉は、作家自身の発言に従い、ヴェラスケスやレンブラントなど過去の巨匠や、ギリシャ神話やT.S.エリオットなど文学、あるいはE.マイブリッジなど写真のうちにあるとされてきた。しかし、今日様々な資料がベーコンの発言に戦略性があったことを明らかにしつつある。一方、1930年代から50年代にかけてイギリスで顕著であったネオ・ロマンティシズムは、幻想的な風景画や脆弱な身体表現をその特徴としており、ベーコンとの親近性は明らかである。確かにベーコンは、W.ブレイクなどイギリスの美術やJ.ポロックなどの同時代美術に否定的な発言を繰り返していたものの、その発言に潜んでいた戦略性が明らかになった今、ネオ・ロマンティシズムとベーコン作品との距離を改めて見定める研究が急がれている。なお、先行研究では、D.メローやK.クラークなどに見られるように、関係を指摘するにとどまっており、より多くの関連図像を探査する基礎的研究が必要である。そこで、フランシス・ベーコンにおけるネオ・ロマンティシズムの受容について分析するために、まず、ベーコンが自らの様式を確立しつつあった1930-50年代までのイギリスで開催された展覧会の中から、ネオ・ロマンティシズムの作品、あるいは作家が含まれているものをリスト・アップする。そして、できうる限りの図版(なければデイスクリプション)、展覧会評もあわせ、それらを整理、データベース化する。次に、ベーコンが見知っていた可能性があると思われる作品の実地調査を行い、プロヴィナ-80 -

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