② 「福音書記者シンボルの東西」発表者:早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程瀧口美香入される。福音書記者の肖像は、動物の形によって表される福音書記者のシンボルと組み合わせて描かれることがあるが、ビザンティン福音書写本の中ではむしろ少数派である。シンボルが必ずといっていいほど福音書記者とともに描かれる西方の福音書写本に比べれば、その差は顕著である。西方のラテン語福音書写本挿絵では東方のギリシア語福音書写本とは対照的にシンボルの挿入がはるかに頻繁であるのみならず、その表現はバラエティーに富み、豊かな想像力によって生み出されている。福音書記者肖像の中で、記者とシンボルとをそれぞれどのように配置し、結びつけるのか、両者の関係はそもそもどのようなものであったのか。画家たちは様々に異なるタイプを次々と試みることによって、両者のつながりを描き出そうとした。それでは、シンボルが東方(ビザンティン)の福音書写本において、西方のように広く描かれることがなかったのはなぜだろうか。人、獅子、牛、鷲の「似姿」のもとに各福音書が書かれた、という教父らによる説明はむしろあいまいであり、記者とシンボルのつながりがどのようなものであったのか、それをどのように表現すればよいのか、従うべき決定的な「規範」がなかったことが、東方の画家が積極的にシンボルを描こうとしなかったひとつの理由であろう。なぜなら、イコノクラスム以降、東方の画家にとって、新しいイメージを創造すること、独自の創意工夫によって新しい図像を導入することをは厳しく禁じられていたからである。ところが、西方の画家は決定的「規範」がないという事実を逆に創作の絶好の機会ととらえ、実に様々な解釈を探究し、絵画化している。東西の対照的なありようは、イメージの役割とは何か、イメージをどのように認識するかということに対する、西方と東方の根本的違いを明確マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネによる四福音書はビザンティン写本中、最も重要なジャンルの一つである。現存する作例数は、他の聖書写本(旧約八大書、預言書、詩篇、使徒書簡、黙示録など)に比べてはるかに多く、福音書写本がビザンティン社会における写本制作の中で、主要な位置を占めるものであったことがうかがわれる。福音書写本には、しばしば福音書記者の肖像が挿-17 -
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