鹿島美術研究 年報第20号
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④ 「対抗宗教改革期の北イタリアにおけるサクロ・モンテ構想」コレクションである。エッチング86点、リトグラフ18点からなるこの作品群は1918年(大正7)6月、石橋のコーデイネイトで開かれた展覧会に出品され、その後東京帝室博物館に寄贈された。ここでは、第一次大戦の難民支援を目的としたこの展覧会をとりまく状況を明らかにし、出品された版画を紹介したい。とくに第一次大戦を主題としたリトグラフに焦点をあて、ブラングインが常に持ちつづけた社会の暗部への鋭いまなざしを浮き彫りにする。また、彼が制作にあたって写真を利用していたことも指摘したい。(3) ブラングインと装飾壁画ブラングインは、松方幸次郎が構想していた「共楽美術館」の設計に関与していたことが知られている。幻に終わったこの計画については、当時の建築雑誌に掲載されたスケッチから類推するしかないが、彼が美術館内部の装飾にも関心を寄せていたことはある程度想像できる。というのも、ブラングインは各国の公共建築物に、多数の壁画を献納しているからである。ここでは国立西洋美術館寄託の4枚のパステル画について取り上げ、それが1914年のパナマ・太平洋博覧会に出品された壁画の習作であることを明らかにする。発表者:大阪大学大学院文学研究科博士課程大野陽子であるヴァラッロの巡礼地においても、現在見られる礼拝堂の大半は対抗宗教改革期に建てられている。ヴァラッロのサクロ・モンテの造営に対する、ミラノ大司教カルロ・ボッロメーオイタリア北部アルプス周辺地域には、「サクロ・モンテ」と呼ばれる複合宗教施設が数多く確認できる。山上に複数の礼拝堂を建て、それぞれの内部に、フレスコ画を背景にして等身大の像を配するという独特の形式で、キリストや聖母マリアあるいは聖人の生涯が表されている。その多くは16世紀末から17世紀の、いわゆる対抗宗教改革期に着エされたものであり、15世紀末に創建された最古のサクロ・モンテ-19-

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