鹿島美術研究 年報第20号
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族のグループとして表された。様々な形姿をとったガナ像は建築の荘厳モティーフや説話場面に表され、造形される条件により、その図像に重層的な意味、機能が付加されていくことが明らかとなった。財宝系ヤクシャとしてのニディも、南インドで主流をなす春族的なヤクシャのグループで、文献的にはクベーラの春族とされ、クベーラの所有する財宝を象徴する。本研究は、デッカンを含む南インドからスリランカに展開したニディ像、特にパドマニデイ、シャンカニディを取り上げ、各時代、地域によってどのような変遷を遂げたか、ニディ像の図像の形成と伝播を王朝の造形活動と関連づけて、その様相を明らかにすることを目的とする。このパドマニデイ、シャンカニディは、アーンドラ地方、ナーガールジュナコンダで初めて人格化した像が見られ、その後6世紀以降デッカン地方で台頭した初期西チャールキヤ朝のパッタダカルのヴィルーパークシャ寺院、ラーシュトラクータ朝のエローラのカイラーサナータ寺院、9世紀以降タミル地方を支配したチョーラー朝、スリランカのアヌラーダプラ、ヴィジャヤバーフ宮殿などの守護神として盛んに造形化された。特にニディはクベーラの脊族であることから、クベーラの「諸王の王」という形容とも結びつき、その像そのものが王朝の繁栄を宣揚するものと見られ、ヤクシャと王権の関わりが投影されている。寺院造営は王朝の一大事業であり、そこに繁栄の象徴であるパドマニデイ、シャンカニディを守護神として祀ることにより、永遠の栄華への祈りが造形され、そこにヤクシャ信仰の本来の姿が看取される。まさに個人的な寄進レベルではなく、王朝という大規模なパトロンでこそ、必要となる尊各である。よって、財宝系ヤクシャであるパドマニデイ、シャンカニデイの研究は、寺院とそれを造営した王朝の関わりを明確に示すものとして、有意義なものと言えよう。③ 和装+羅刹女像の図像形成に関する研究—扇面法華経冊子・平家納経を中心に一研究者:財団法人大和文華館学芸部部員増記隆介本研究は、従来、女性による法華経信仰という観点からのみ説明されることの多かった和装十羅刹女図像の成立に関して、興然『五十巻紗』等の普賢十羅刹女像研究において夙に取り上げられていた史料、及び新たに見出された史料から「変化身」とい-34-

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