元にした模倣と創造によって成立してきた朝鮮文化の特質、また日本独自の伝統を考える際に重要な意味を有すると思われる。今回の研究は、日本所在の朝鮮朝の宮廷仏画が中心になるが、日本には直接・間接的に関係がある宋・元・明代の遺品、更にこれと比較すべき日本の作例が多数存在しており、これらを中心テーマに投影することにより、東アジア文化の潮流の大勢を客観的に検討することが可能となる。さて、日本所在の宋・元仏画と高麗仏画に関しては、日・中・韓の研究者たちによって、研究成果が活発に発表されている。しかし、申請者が対象とする朝鮮前期の作例は、遺品が日本や米国など海外各地に散在し、その包括的現地調査が非常に困難であり、未だに十分なる資料公刊や研究が行われていない状態である。遺品の優秀性にもかかわらず、この分野の研究は、作品リスト或いは作品に関する簡単なモノグラフの水準にとどまっている点も、研究動機の一端を担っている。宋元仏画と関係深い高麗仏画、宋元朝の形式をその図像学的基底とする明朝様式、これらの受容及び変容を基にして成立される朝鮮仏画など。このような有機的関係にある文化的影響関係を考慮する際に、本研究は単なる高麗朝と朝鮮後期の間のいわば断絶された状態の朝鮮仏画史を埋める作業となるだけではないと考える。即ち、当時の中国と日本との文化交流と国際秩序をより具体化することを通して、東アジアにおける失われた美術の歴史の復元作業の一環にもなると考えられる。⑦ グイド・レーニ(ボローニャ、1575-1642年)研究研究者:東北大学大学院文学研究科博士課程後期高橋健一グイド・レーニをはじめとする17世紀絵画と同時代文学、修辞学との関係については近年様々に試験的な研究が行われている。このことは、あくまで歴史・物語画が中心であったこの時代の絵画、絵画理論を理解する上で、主題となる歴史・物語、あるいはその歴史・物語の再現の方法を説く理論の検討が不可欠であるとの、研究者間の共通認識を反映していると言えよう。既に同時代に賛否両論あったグイド・レーニの歴史・物語画を研究する場合、この視点はとりわけ有効であるに違いない。事実、G.ペリーニによる17世紀前半ボローニャの画壇と文壇との関係に関する総論をはじめ、上記の学者によるレーニの個別作品事例の研究は、多くの優れた成果をもたらした。しかしながら、申請者の見るところ、これらの先行研究が選択して検討した同時代-38 -
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