⑩ 日本近代洋画における五感の表現研究者:佐賀県教育委員会生涯学習課副課長松本誠日本近代洋画史において、白馬会から東京美術学校西洋画科へと連なる画家たちが、どうのような絵画を描いたかについては、個々の事例研究には枚挙にいとまないものの、それらの総体としての理解はいまだ不十分であると言わざるを得ない。それら個別の作品、作家の深層には、「日本のアカデミズム」「日本の印象派」等の用語では包括し得ない日本近代洋画の特質が横たえられている。本申請者はかって岡田三郎助の風景画を手掛かりにして、白馬会系の画家たちが描いたいわゆる小風景画との対比において、日本近代洋画における風景画の成立過程を見出した。それは一方では、岡田三郎助の風景画に端的に見られたように、風景画に様式化された骨格を求めるひとつの出発点ともなった。この風景画における様式化は、人物画においても見られるところであった。このことは、岡田の作品においてプロフィールに描かれたり、後ろ向きのポーズで描かれるという独特の構図に従った作品として表されているが、そこには風景画の様式化において見られたような、典型化とはべつの装飾化への意思によっても特色づけられていた。本研究は以上のことを踏まえて、さらに日本近代洋画における「感覚」表現について考察しようとするものである。ここでいう感覚表現とは、人間の五感をモチーフとして絵画化することをいう。この五感が描写対象となることで、日本近代洋画にあっては人間の情動表現が作品の主題となってくるが、このことが象徴するものは、絵画の近代性の表明であり、また絵画の表現性の現れ、さらには絵画の自立性の確立でもあったと考える。以上を通じて、日本近代洋画におけるリアリズムの深層に沈められた内実と、そのことが意味する「近代」性について考察したい。⑪ ニコラ・プッサンとその周辺のフランス人画家における古代受容の一様相研究者:早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程宮島綾子プッサンと、ローマに滞在したフランス画家たちに関しては、すでに1940年代から-41 -
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