鹿島美術研究 年報第20号
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⑬ チャールズ・デイター・ウェルドンと日本研究者:早稲田大学大学院文学研究科博士課程瀧井直子チャールズ・デイター・ウェルドンは、ナショナル・アカデミー・オブ・デザインの会員であり、水彩画家や挿絵画家として19世紀後半のアメリカで活躍した。さらにウェルドンは、日本や中国を描いた画家としても知られる。6年間の日本滞在中ハーパーズに送った挿絵やナショナル・アカデミー・オブ・デザインの展覧会を通じて日本を主題とした作品を発表していたことが、これまでの申請者の調査で明らかになっている。まぎれもなくウェルドンは、ロバート・ブルムやセオドア・ウォレスと並んで、明治の日本の姿をアメリカに伝えた重要な画家のひとりである。しかし、没後その名はアメリカ美術史から忘れ去られ、現在に至るまで注目されていなかった。これまでのジャポニズム研究は作品の主題やモチーフの選択、日本美術の造形言語の欧米への影響を問題としてきたが、実際に日本に住んだアメリカ人画家たちについての基礎的調査は不十分なものであるといわざるを得ない。申請者は、ウェルドンの日本での足取りと彼が描いた日本のイメージの分析を通じて、美術のみならず、文化や社会全体に及ぶ日米交流の一端を明らかにするとともに、そこに示された「眼差し」の特性を考察する。そこで、「チャールズ・デイター・ウェルドンと日本」研究では、画家自身がのこした発言、外務省記録や居留地関連の史料からウェルドンの日本での活動を追うとともに、『ハーパーズ・マガジン』に掲載された挿絵や、現存する作品、当時の展覧会の図録、展覧会評、同時代の新聞や雑誌の記事の分析を通じて、ウェルドンの画業を明らかにする。さらに、こうした調査からウェルドンが日本滞在中に日本の美術界や同時期に来日していたアメリカ人画家たち、またジョージ・ヘンリー、エドワード・ホーネルら来日イギリス人画家たちとどうかかわっていたかを明らかにしたい。こうした問題に取り組むことで、これまでとは違う視点から明治の日本美術界をとりまく国際的交流の一端が明らかになることを期待したい。-44 -

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