る点で、資料としての利用価値もきわめて高い。⑮ イタリア中世板絵の金地ー一下層にボーロのない金地ー一—研究者:絵画保存修復家大竹秀実美術史においては「金地」のひと言で片づけられてしまいがちな中世板絵の金箔をはる技術と材料について詳しく考察する。金箔の合金の違いから生じる色の相違、厚さ、ボーロ層の有無と色、結合材やはり方を理解することは技法・材料の知識としてだけでなく、様式の研究にとっても大切である。技法・材料の選択は、時代と地域の影響を受ける他、画家自身が作品をどのように表現したいかという制作の意図にも関与しており、金地は単なる背景、装飾以上の重要性をもつ。例えば、ll00-1200年代半ばのボーロを塗らずに白い石膏の地塗りの上に直接金箔を置く方法では、金は冷たい色調を帯びる。一方その後流布するボーロがその間に介在すると、金は暖かい色調を帯び、またこの粘土質の物質は刻印の作業性も高める。厳密な専門に分かれるギルド成立前の時代、画家も金銀細工師のように箔の色調に精通し、意図的に使い分けを行っていた可能性は否めない。ボーロが広く用いられるようになった理由を探ることにより、板絵に金箔をはる技法、材料一般に関する理解が深まるだけでなく、金地と絵具が塗られた色面との相関関係、ー作品全体に対する画家の意図、その時代の美的感覚、特質について図像的解釈からではなく、物質的側面という新たな切り口から把えることができる。⑯ ベン・シャーン「ラッキードラゴン・シリーズ」に関する考察研究者:福島県立美術館主任学芸員荒木康子ベン・シャーン(1898-1967)は、社会と美術の関わりを常に意識の根底に据えて制作を続けてきた画家である。ユダヤ人移民であったシャーンは、宗教、民族の差別を扱った作品でデビューした。第二次世界大戦以前は、政治組織との関わりを持ちながら、画業を展開する時期もあったが、晩年には個別の政治的主張から一歩退き、より根本的な人間の問題をテーマにするようになる。「人間の英知、つまり科学の進歩に奢る人間の愚かさ」は、画家にとって重要なテーマの一つである。1954年の第五福竜丸-46
元のページ ../index.html#72