事件は、そうした晩年のシャーンにとうてまさに格好の題材であり、11点の絵画が制作された。ベン・シャーンについては、政治的な要素をもった初期作品を中心に、アメリカの研究者による研究がなされてきた。「ラッキードラゴン・シリーズ」に関する研究には、事件そのものの情報も不可欠であるが、日本を舞台に展開した事件であったことから、未だ本格的な研究はなされていないと言うのが現状である。シリーズ制作に重要な役割を果たしたと考えられる1960年の日本滞在についても不明な部分が多い。来日に関する調査を含め、本シリーズに関して日本側から可能な調査をし、従来の調査の空白部分を埋めることができるとすれば、個別の作品理解を深めるのみならず、晩年の画家の姿をも浮彫りにすることができるのではないだろうか。今後のベン・シャーン研究にとっても意義があると考える。⑰ 「キモンとペロー」主題研究ーーカラヴァッジストの作例を中心に_研究者:京都大学大学院文学研究科博士後期課程深谷訓子ピグラー(1934年)の論考以降、この主題の図像学的研究としては、「成人への授乳」という観点から考察を加えたw.デオンナの研究(1954年)、クナウアーの論文(1964年)、この主題とカリタスの擬人像とを扱ったタピエによる展覧会カタログなどが知られるが、いずれも笠括的な研究と呼ぶには程遠い。とりわけカラヴァッジストの作品に関しては、可能な範囲で歴史的状況を再構成するという基本的な作業もまだ十分ではなく、カラヴァッジストの「キモンとペロー」に的を絞った研究が待ち望まれている状態である。また本研究は、申請者の意図している「キモンとペロー」の包括的な主題研究(ルネサンスから17世紀末までを扱う)の重要な一部を成すものであり、基本的な資料として参照の役に立つ研究となるよう努める所存である。また、「囚われの老父に授乳する孝行娘」の物語である「キモンとペロー」は、成人への授乳を描くという点で検閲や非難の対象となることもあれば、対照的に親孝行の促進などのメッセージを担って公共事業などの関連で用いられることもあり、官能的絵画の解釈という点でも興味深い論点をはらんでいる。「悪徳に源を発する官能的場面」の解釈を扱う研究は多いなか、この主題のように「疑いない美徳を描きつつ官能的でもある」という絵画の考察は少ない。絵画の喚起力、あるいは美徳的メッセージ-47
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