を確立した。16世紀初頭にはかなり高度なレベルの漆芸品が製作されていた。近世琉球のレベルの高い漆芸品は王府の組織の下で品質を管理製作され、王国の権威を象徴する贈答品として、また経済基盤を支える交易品として国外に送られた。琉球王国では、中国や朝鮮、日本、東南アジア諸国から大きな影響を受けながら沈金・螺細・箔絵・漆絵・密陀絵・堆錦などの多種の漆芸技法が発達した。とりわけ、沖縄で最も定着した堆錦は東南アジアの盛り上げ技法と類似しており、風土や中国との深い関わり方などの共通項も多くみられる。本調査研究では、琉球漆芸に影響を与えた東南アジアの盛り上げ技法を視点とし、実証的な研究方法で琉球漆芸を解明していきたい。⑳ メアリー・カサットについての領域横断的研究研究者:東京大学大学院総合文化研究科博士課程江崎聡現在博士課程三年次に在籍している。博士課程の履修規定単位はすべて修得している。これよりおよそ1年半の期間をかけて、博士論文を完成させる計画である。調査研究の目的はこの博士論文の執筆、および完成である。カサットは、日本は無論のこと、本国アメリカにおいても、いまだ研究が充分にはなされてはおらず、知名度も低い。よって、私の博士論文の意義は、まず第一に、日本においてメアリー・カサットとその芸術を紹介することにある。そして、第二に、先に述べた、これまでの先行研究にはなかった新しい視点、すなわち、カサットのヨーロッパ美術収集という観点から特に、カサットの創作行為、そして作品のもつ意味を再検討するということにある。美術収集行為という観点から世紀転換期のアメリカにおけるカサットとその作品が果たした役割と意味を考察するのである。具体的には、ヨーロッパ在住のアメリカ人コレクターとして活躍したカサットが、このヨーロッパとアメリカという文化的交流において、いかなる位置を占めていたのかという問題、そしてその新しい視点によって浮かびあがったカサット像をとおして、いまひとたび、世紀転換期のアメリカの文化的状況を考察することにある。その際には、ジェンダー研究の議論も充分に取り入れ、カサットが女性の画家であり女性のコレクターであったという点に特に注目したい。世紀転換期に登場した「新しい女性」("NewWoman")としてのカサット、そして一般的に男性の領域とされていた美術収集という知の纂奪と再配置に女性として関わった50
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