立•発展してきたことを暗示している。換言すれば、「戸外で素描する人」の研究によH.ピーチャムは丘、森、城、海、谷、廃墟、岩、都市、町を描いたものが風景画であ体的な技法までも詳述されているが、すべて田園の描写に関するものである。一方、ると書いている(1606年)。17世紀初頭の段階では、風景画の概念がまだ確立していなかったようである。「戸外で素描する人」のモティーフは、個別の作品研究の中でこそ言及されてはいるが、包括的な研究はこれまでなされていない。数少ない先行研究では、このモティーフはイタリアで活躍したネーデルラント出身の画家たちの作品に多くみられる、と指摘されている。高い評価を受けながらも芸術理論上は低く位置付けられていた風景を専門に描く北方出身画家の微妙な社会的身分が反映している、というのである。しかし、「戸外で描写する人」は、17世紀オランダの風景画にも珍しいものではなく、また、15世紀末以降都市図の中にしばしば描き込まれている。風景画と都市図の両方に共通する特定のモティーフが登場する事実は、両者が深い関わりを持ちながら成って風景画の成立と展開における都市図の影響を明らかにすることができる。風景画と都市図における「戸外で素描する人」というモティーフが、いつ、どこで、何を、どのように、誰と描いているか等を調査することにより、このモティーフの担う意味や機能が個々の作品ごとに特定化される。この次の段階でなされるべきは、従来の風景画と都市図の枠組みの再検討である。この作業の成果として、風景画の概念形成の過程が徐々に明確化されていくことになるはずである。⑳ 風俗研究家・吉川観方のコレクションの特質と意義研究者:京都府京都文化博物館学芸員藤本恵子吉川観方氏の旧蔵の風俗資料には、肉筆浮世絵や浮世絵版画を含む近世絵画や公家・武家・町方の衣食住に関する用具に至る多種多様な内容となっている。その中でも染織(服飾)関係の資料はコレクションの核をなすもので、上方文化の特色を有し、階層・性別・季節・年令等のあらゆる相違を、1つのコレクション内で網羅し比較検討が可能な資料として、ある一定の価値があるものと考えられ、この調査は意義深いと思われる。また、明らかにされにくい庶民や遊里の生活にも触れられ、、検討資料の少ない染織分野の裾野を広げるためにも必要があると考える。52 -
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