鹿島美術研究 年報第20号
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島図への検討を軸に、画題の成立事情、17世紀前半までの景観構成や風俗描写の特性を考察すること、続いて、17世紀半ばから18世紀初頭にかけて主流となる多くの町絵師系作品を対象に、そうした特性がどう変化し、類型や主題の多様化を実現させているかを考察すること、の2つを大きな柱としたい。これらの流行とほぼ時期を同じくして、内裏関係障壁画には、狩野派による名所景物画としての厳島図が命脈を保っており、両者の構造的な比較も交えながら、近世絵画史上における厳島図の位置付けに、より具体的な輪郭を与えるための展望をもたらすことを期するものである。⑱ 小磯良平の新聞・雑誌連載小説の挿絵の研究研究者:神戸市立小磯記念美術館学芸員印刷複製技術の発達、マスメデイアの隆盛によって、挿絵という文化がもたらされ、新聞及び雑誌の挿絵制作に一流の画家たちが参加するようになる。時代を反映して創作された連載小説と、その挿絵が大衆に与えた効果は、いかなるものであったのか、また多くの画家たちが手がけた連載小説の挿絵の中で、小磯良平の挿絵は大衆にどのような印象をもたらしたのか、小磯の挿絵の独自性について考察したい。室内の女性像を得意とすることで知られていた小磯であったが、そうしたいわば演出した空間を描くこととは趣が異なり、連載小説の挿絵においては、例えば、当時の社会的問題を取り上げた小説であれば、その内容にびったりと合致した描写が随所に見られるというように、各挿絵が何らかの形による取材に基づいて描かれたであろうことが推測できる。挿絵の仕事は、もちろん、画家としての本業の片手間として引き受けられたと思われるが、小磯の制作が、実際に事物を目の前にして行われることを考えても、挿絵を描くにあたって、準備や資料集め、取材等が生じていたと考えられる。また、一方で、連載小説の挿絵の仕事を通じて、小説に描かれた主題によせる小磯の関心が油彩画にも影響を与えることがあったかどうかについてもあわせて検討し、小磯の画家としての業績の中で、新聞・雑誌連載小説の挿絵がどのように位置づけられるか考えたい。辻智美-55 -

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