鹿島美術研究 年報第20号
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うならば、デュシャンという名が、コンセプチュアル・アートの成立•発展にどのよ⑳ 1970年代アメリカにおけるマルセル・デュシャンの受容の様態について研究者:国立国際美術館研究員平芳幸浩本研究の考察対象であるマルセル・デュシャンは、日用品をレデイ・メイドと名付けそのまま芸術作品として発表する、作品における視覚的価値と概念的価値を等価に扱う、などといった点において20世紀美術の歴史に名を残し、多くの後進の作家たちに影響を及ぽしたと言われてきた。しかしながら、そのような影響の在り方とは、作品表面の視覚的類似性、あるいは後進の作家によるデュシャンヘの言及をもとに、「同質性」によって関係を構築するものでしかなかった。そのような影響論においては、記述されるデュシャンの姿は固定され、そのイメージに見合う形で影響の在り方が語られることになる。しかしながら、実際のところ、個々の作家にとってデュシャンが20世紀の美術にもたらした意義や意味は異なり、それと同時にそこから理解されるデュシャンのイメージも一様ではない。本研究は、従来型の「影響」という視点ではなく「受容」という視点からデュシャンと1970年代アメリカの作家たちとの関係を捉え直すことで、これまで固定されてきたデュシャンの姿を修正することを目的としている。この「受容」の視点がとりわけ本研究において有効であるのは、デュシャンがピカソのように常に有名でその動向が注目を集めてきた作家ではなく、戦後になって「再発見」された作家に他ならないからである。デュシャンは戦後美術の文脈における「受容」によって、その名が広く知られるようになったのである。さらに本研究の意義としては、コンセプチュアル・アートの文脈でのデュシャン理解の様態を明らかにすることが挙げられる。コンセプチュアル・アートについての研究は近年盛んになってきたが、デュシャンとの関係については、その先駆者として名が挙げられるだけで、詳細に検討されることはこれまでほとんどなかった。さらに言うに利用され、作用することになったかについてはまったく考察されてこなかった。それゆえに、本研究は、コンセプチュアル・アートとデュシャンの関係を問い直すという意味において、コンセプチュアル・アート解釈及びデュシャン解釈双方に新知見をもたらす非常に重要な研究となる。-56-

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