ー一地方に現存する十一面観音を素材として—に仏教信仰を中心とした観点から行う。それによって、若狭•紀伊の当時の性格を述⑳ 奈良時代における地方造像に関する研究研究者:東北大学大学院文学研究科博士課程後期近藤暁本研究は、奈良時代における地方造像のあり方と、中央との関連性について、その一端を明らかにすることを目的とする。考察にあたっては、福井県多田寺像・和歌山県円満寺に伝来する十一面観音像を主な対象としたい。この二像は、地方に伝来する八世紀の像の中でも、服制・装身具の意匠・衣紋表現などに中央の造形と共通する特色が確認される一方、面貌や身体表現などが当時の官営工房・造東大寺司のものと異なる作風を示し、地方の造像活動と中央との関係を考慮するに好適な素材であるといえよう。このような造形がどのような状況の下で生まれ得たか。先に述べた二像の造形的特色をより明確に分析し、さらにそれぞれが伝来した地域の奈良時代的意義付けを、特べ、像が伝来するに相応しい場所であったことを確認したい。さらに、『日本霊異記』や『東大寺諷誦文稿』等の研究から、当時地方での法会は頻繁に催され、それを勤めた官大寺僧は中央で成立した説話の雛形を各地域にもたらし、その場に相応しく読み替えて語ったことが想定されている。このように、中央から伝えられたものが地方に応じて改変されるという説話における視点は、仏像制作を考える上でも有効であると判断し、在地と中央を往還した僧侶が果たして造像にどのように関わり得たかについて、言及したいと考える。現在、奈良時代に制作されたと考えられる像は、その多くが当時の宮都である平城を中心とした畿内に伝存する。そのため、地方に伝来するいくつかの像は、当時の在地における造像活動、中央との関係性、さらに在地における信仰のありかたを考えるうえで、重要であることは指摘され、既に認識されているものの、一方で具体的に論じられたことは未だ無い。したがって、現存する像について、その造形的特色に端を発し、歴史学・文学史学的等の視点を利用し、多角的な観点からそれを取り巻く環境を復元し、制作された状況について言及しようとする試みは非常に意義深く、重要であると考える。-58 -
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