鹿島美術研究 年報第20号
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明らかにするためにも、逆に演繹的手法が求められるべきなのである。申請者は、まさにギリシア墓碑の展開の全体像をつかむことを研究の大目標としている。すなわち、図像の総合的な分析を通じて、各地方ごとの特色や地方間の相関関係、また、それぞれの地方が各時代に果たしたギリシア全体の中での役割、影響力などを明らかにすることを目指している。申請者の研究の独自性は、各時代、各地方の分析にとどまらず、それらの相関関係の解明を重視している点にある。具体的には、墓碑図像のモチーフによる分類が解明の鍵となる。まずは制作された時代や地域に関係なく、モチーフごとに、例えば運動選手像や兵士像といったグループを作るのである。分類の基軸をここに置くことにより、却って時代間や地域間の関係性が見えてくる。なぜなら、例えば、運動選手像といっても、その表し方は時代によって、また、地方によって異なるからである。いくつかあるモチーフの中から、今回申請者が取り上げるのは運動選手である。これを選んだ理由は、作例が比較的多く、前6世紀以来、常にどこかの地域に作例があるからである。運動選手像の展開を明らかにすれば、各時代、各地方の墓碑図像の全体的な特色も浮かび上がってくるはずである。⑭ シャガールのアメリカ時代研究者:青森県環境生活部美術館整備・芸術パーク構想推進室学芸員シャガールのアメリカ時代というこれまでのマルク・シャガール研究の中でも、等閑に付されてきた時代に光を当て、考察を加えることは、主に次の二つの点において意義がある。一つは、画家のシャガールとその活動の全貌についてこれまでの理解をより深いものにするということ。故郷ロシアヘの熱い想いとミューズ的な愛妻ベラの存在は、常にシャガールの制作活動の大きな霊感源となっている。アメリカ時代にはこれら二つの霊感源が危機にさらされたり、失われたりした。そうした状況に直面しつつ制作した作品では、これら二つの要素の重要性が浮き彫りにされ、そのことが画家の活動を理解する上で本質的なものとなってくるのである。もう一つは、シャガール研究の新しい地平を切り開くものとしての意義である。バレエ「アレコ」の舞台背景画の研究を通じてモダニズム的な解釈による当時の美術の高橋しげみ60 -

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