う視点から分析することによって、都市描写や物語における〈異装〉の役割を明らかにできるほか、『年中行事絵巻』論のように作品によっては制作目的そのものに根本的な疑問を提示することも可能となる。また、絵画から得られる装束についての情報は多くあるため、異形の姿をした人々に関する歴史研究や装束および飾り物の実証研究といった方面にも本研究は寄与できるであろう。さらにく異装〉のもつ非日常性と、その日常性がもつ異国性との関連からは、〈異装〉における外国人仮装や異国装束などの論点において比較文化研究にも大いに寄与できるものと考えられる。本研究では、中世の絵巻作品を中心とする絵画の分析を〈異装〉が描かれている箇所とその描き方という点を基に行うことと、個々の作品分析を超えて、〈異装〉の担う物語上および社会的な意味とは何かを作品横断的に行うことを研究の軸とする。併せて〈異装〉そのものを詳しく分析し、その非日常的な特徴とは何かを分析するものとする。中世の絵巻物のほかに、日記・物語等の文献における〈異装〉描写や中世以降の服飾との比較対照なども適宜行うことによって、中世における〈異装〉のあり方を明らかにする予定である。⑰ 垂遊画の山水表現に関する研究研究者:早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程梅沢垂迦画に関しては、本地垂迩説という特殊な思想的な背景をもっためか、中世絵画史における位置づけが十分になされているとは言い難い。垂迩画には則るべき教典や儀軌が存在しない。それ故、生み出された図様は多岐にわたり、分類が困難であったことも、垂逃画の多くが等閑視されてきた一因であると思われる。垂迩画は中世絵画の山水表現の問題を考える上で、多くの重要な問題を抱えている。しかし、一部のよく知られた作例以外に関しては、画面に描かれる山水表現を確認し得る良質な写真資料さえも乏しいのが現状である。まずは、出来る限り多くの作品調査を進め、今後の研究の礎となるデータを収集し、山水表現について、具に検討することにより、編年的に整理することを第一の目的としたい。そうした上で、さらに具体的な考察として現段階で関心を寄せているのは、垂迩画における一部の風景モチーフの特化、肥大化、凝縮化という傾向、いうなれば、「風景の図像化」という問題である。例えば、春日宮曼荼羅には、画面の上部にパッチワー63 恵
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