鹿島美術研究 年報第20号
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Stoische Weltbetrachtung)を発表した。このキケロのテクストの一部分とは、地理学者進める予定である。以上を総合して、「君主の寝室」という重要な政治メデイアを15、16世紀イタリアの政治文化史の研究対象として位置付けていきたい。そしてさらに、ゴンザーガ家君主の権力体制と支配理念という視座から、「君主の寝室」制作のポエティクスを追い、16世紀イタリア君主の文化的政治学なるものを示していこうとする構想を抱いている。⑬ ピーテル・ブリューゲル、初期風景画に見られる添景人物ー一人文主義的コンテクストにおける考察―研究者:お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士後期課程ブリューゲルの風景画については、ド・トルネイ(1935)以来、ブリューゲルの精神主義的宗教観と人文主義的自然哲学の影響により生まれた、自然と人間の合一の寓意とする解釈が優勢である。ミュラー=ホフシュテーデ(1979)は同様の立場で、ブリューゲルの風景画によく見られる「眺望を見渡す人物」と「スケッチする人物」に初めて注目、この意匠とキケロの『神々の本性についてII』の一部分とを結びつけた論文(ZurInterpretation von Bruegels Landschaft. Asthetischer Landschaftsbegrijf und アブラハム・オルテリウスが、世界地図『地球の舞台』(第2版1579年)の上部に引用したものである。ミュラー=ホフシュテーデは、オルテリウスが、ストア派の自然観に合意し、自然を、人間がそこから多くのことを学びうる、宇宙と調和のモデルと考えていたと論じ、彼と親交のあったブリューゲルも同様の見地から、無名化された人物たちを、自然と調和の中で生きる、人間の肯定的なモデルとして描き出したと主張した。申請者は、以上の先行研究を出発点とし、オルテリウスを中心とするアントワープの人文主義サークルとブリューゲルの芸術活動との関わりをより詳細に調査する一方で、従来体系的な研究が成されることがなかった、風景に添えられた民衆の姿(副次的人物)に注目するという独自の視点で先行作品との図像比較を行うことでブリューゲル作品の歴史的位置をより精緻に見極めることが可能になると考えている。申請者の研究は、15、16世紀のネーデルラント風景表現の展開を、「自然と人間」というテーマで捉え直し、知識者階級と民衆の両方向からアプローチすることで、最終的に廣川暁生_ 69 -

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