鹿島美術研究 年報第21号
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② 2003年度助成金贈呈式2003年度「美術に関する調査研究」助成金贈呈式は、第10回鹿島美術財団賞授賞年1月24日の助成者選考委員会における選考経過について説明があった後、原常務究を丹念に踏査しつつ、ボストン美術館所蔵の《マルスとヴィーナス》を手がかりとしてその図像ソース、モティーフの選択と解釈、マリーノの詩作を援用しての絵画的比喩論にまで発展させており、新しいプッサン像を提示せんとする意欲的、かつ新鮮な試みとして高く評価された。具体的には、同作の図像ソースとして、従来からの16世紀の、またルーベンスにもとづく同題の版画に対して、新たにアドニスの古代石棺浮彫との類似に着目し、ヴィーナスをめぐるこれら二主題の構成と意味の結び付きを強調する。さらにパッセリの伝記を踏まえ、プッサン作に描かれた田園風景、マルスの盾、プットーの動きや配置等が詩人マリーノによる詩篇『アドーネ』のテキストに文学的ソースがあることを例証してみせ、大いに説得に富む。最後に同作は、単に「愛の勝利と平和の寓意」というボッティチェルリ以来の同主題のルネサンス的解釈に終わるものではないと主張する。その典拠に、やはりマリーノの『聖なる噂』を挙げ、そこで展開される絵画、音楽、詩に関する理論のもとに、「創造性をもたらす愛に支配された諸芸術の世界と、その勝利への賛歌」と推論づけている。しかし、ここにいたる論証は、さらに綿密な検証が待たれるであろう。また、同作の注文主カッシアーノ・ダル・ポッツォのために、いかなる意図のもとに制作されたのか、同時期の他の作品との主題上の関連等の解明も、今後の課題として残されている。氏のこの研究報告は、『美術史』151冊掲載の「ニコラ・プッサン作《二人のニンフと蛇のいる風景》の作品解釈ーニュンファエウムと霊感の泉ー」と同様、積年の研鑽による極めて優れた成果の一つであり、将来における一層の活躍への期待も込め、十分に財団賞にふさわしいと考える。以上である。式に引き続いて行われ、選考委員を代表して、高階秀爾・大原美術館館長から2003理事より助成金が贈呈された。-15 -

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