鹿島美術研究 年報第21号
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ある。今後これらそれぞれの顕彰に努めてゆくことで、今同じ福岡平野に生活を送る私さえもが異風を感じる諸像を、かつて最も相応しいものとして受け容れた当地の歴史の中に、有機的な連なりと意義をもって位置付けてゆくことが出来るだろうと考えている。「ニコラ・プッサンにおける古代美術の受容」発表者:慶應義塾大学大学院文学研究科後期博士課程刻の人体比例であると考えられてきた。それに対して、エマリング、ウィットコウア、ブルらの研究は、特に初期から中期の作品について、具体的かつ体系的に古代美術に着想源を指摘できることを示し、同時に、ルネサンスの先行作品から得た着想を、最終的に古代の形に引き戻すという、プッサンの作品制作の特徴を明らかにした。ここでは、これらの研究を踏まえた上で、プッサンの古代受容について、さらなる検討を加えていきたい。具体例として、プッサンの《マルスとヴィーナス》(1627■30年頃、ボストン美術館)を取り上げる。この作品は、画家の重要な支援者であり、古代への造詣が深かったカッシアーノ・ダル・ポッツォの為に描かれた作品である。まず、視覚上の着想源としてアドニスの石棺浮彫、カメオ等、古代の作例を新たに指摘し、プッサンが、ルネサンス以降の先行作品から題材の着想を得つつ、作品を構成する主要な要素を古代美術に求めていたことを明らかにする。さらに、プッサンは、これらの諸要素を画布に適切に「配置」し、個々の要素が暗示するものと、それらの対比により生じる意味を巧みに利用して、既存の題材から新しいテーマを作り出したことを示したい。ベッローリが残した絵画に関する覚書の中で、絵画の新しさは題材にあるのではなく、1594-1665)の絵画制作における古代受容のあり方に月典子本発表では、ニコラ・プッサン(NicolasPoussin, ついて検討する。従来、プッサンの作品の古代的性格は、一般的、抽象的なものと見なされる傾向にあり、いくつかの例外を除いて、古代美術の中に具体的にその着想源を見出すのは困難であると言われてきた。あるいはプッサンが古代に負っているのは、髪型や衣装などの細部や、ある性格や年齢を典塑的に表す古代彫-20 -

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