鹿島美術研究 年報第21号
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⑤ 北宋美術における植物文様の研究ー一侮l磁器文様にみる宮廷趣向—3.調査研究の構想ることもなく、である。また、1920年代以降も継続した活動を成した者としても、言説発信者という側面から日本の美術界を検討するためにも重要な存在である。よって神原泰文庫の再調査を基点とし同時代西欧の前衛芸術活動に対する神原の情報収集活動そして自作や言説への反映を明らかにすることは広く日本近代美術の多角的な研究に寄与するものである。研究者:筑波大学大学院人間総合科学研究科博士課程遠藤啓介1.調査研究の意義北宋陶磁の形式編年研究における重要な要素は、器形や釉色、焼成技術などであり、文様の役割は極めて限定的であった。本研究における意義は、陶磁器文様が形式編年研究の重要な要素であることを示し、陶磁器だけではなく、北宋皇帝陵の石刻文様や『営造法式』、北宋墓葬の装飾美術など幅広い分野にみられる植物文様に注目した新しい観点にある。2.調査研究の価値本研究の価値は、北宋陶磁器にみられる植物文様と北宋皇帝陵や『営造法式』に見られる装飾文様を対比することにより、北宋時代の「宮廷趣向」を明らかにすることができる点にある。さらには各地に散在する貴族墓に見られる植物文様とその付近にある窯跡作品の比較から、文様の地域性を明らかにできる。北宋の陶磁器研究において、文様に触れられる場合、その多くは「精粗の差」があるという指摘であった。そして、その理由は、概ね時代的な変遷による文様の崩れ、同時代の技術的・技巧的な差異に帰されてきた。文様がどうして時代の変遷をへると崩れていくのか、同時代にどうして「精粗の差」があるのか、その背景などに触れることはほとんどなかった。本研究では、その背景の一つとして、北宋代陶磁器に見られる文様の中に、磁朴l窯などの大衆のエネルギーの発露である吉祥文様などがある一方で、「宮廷趣向」を表す文様があると考え、それがいかなる文様であるのか、植物文様を中心に検証する。な欧語の原書からの情報をもとにした言説を展開した希少な存在-34 -

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