鹿島美術研究 年報第21号
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北宋代の陶磁器に見られる文様について、その年代を決定できるのは、紀年銘共伴資料と窯跡における層位的発掘に得られた出土資料であり、これらの資料は重要視される。ただし、それ以外でも、精巧な文様を施す作例は、博物館・美術館蔵品に多く、これらも考察の対象とする。このような研究方針は、一般に見られる陶磁器研究と同じである。植物文様の多くは、蓮華、牡丹、宝相華などを中心とした唐草文であり、その変遷と特性をまとめたいと考える。本研究の特徴は、それらをさらに、北宋皇帝陵の装飾芸術(墓葬にみられる壁画や石刻等)や『営造法式』にみられる植物文様と対比させることで、皇帝に近いエ人たちによって施される植物文様の抽出を行うことにある。北宋代の「宮廷趣向」を体現する植物文様を明らかにし、陶磁器に施された文様との関係性を詳細にみてゆきたい。諸窯それぞれとの比較検討を通して、その形式の近似性や差異から、宮廷文化との密接なかかわりがあったのか、また地域による変容が見られるのか等を検討し、考察する。この他にも、陶磁器に影響を大きく与えた金銀器に表される文様との比較を行い、まとめとして、上記の仮説である大衆文化の対極にある「宮廷趣味の美」がいかなる文様であるかを総合的に検証する予定である。⑥ パウル・クレー作〈金色の縁のあるミニアチュール〉(1916年)成立をめぐる一考察研究者:宮城県美術館学芸員後藤文近年の、とりわけ日本人クレー研究者による先行研究は、本研究が考察対象とする「ミニアチュール」作品と成立期を同じくするクレー作品について、キリスト教聖書主題、殊に詩篇へのクレーの関心を指摘するとともに、1910年代におけるクレーとミュンヘンの芸術家集団『青騎士』との関係、また、青騎士メンバーであり、クレーと親しい友好関係にあった画家フランツ・マルク(1880-1916)に第一次世界大戦における戦死など、当時のクレーを取り巻く芸術状況および伝記的事項に着目し、1910年代、とりわけ第一次世界大戦期のクレー作品解釈を試みている。ミニアチュールと同時期に成立し、文字をコンポジションに取り込んでいることから「文字絵」と呼ばれ、東洋、殊に中国の抒情詩に着想源をもつ一連の作品群に関する資料研究の進展により、一連のミニアチュール作品が、ドイツ語圏における中国受35 -

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