•本例の他にも、鎌倉時代の大型鋳造像で原型が遺るかと思われるものが2例ある。19世紀には特に初期ルネサンス時代のイタリアや北方ルネサンスの美術に対して用いができるため、この問題を考える大きな手掛かりを提供するであろう。・頭部の形状が変更されたのは、前頁でも述べた如く注文主の意向の反映等の事情が考えられるが、このことは製作工程において像容の変更が行われた一つの典型的な事例として注目されよう。福島・弘安寺の鋼造十一面観音像と茨城・中染阿弥陀堂の鉄造阿弥陀如来像がそれである。本研究によって、鋳造原型であることを確かめるために三次元計測を用いることの有効性とその際の留意点とが明らかにされることを踏まえて、これらの作例についても将来的に同様の調査が行われ、当代鋳造像研究がさらに進展することが期待される。⑩ ポール・ゴーギャンのブルターニュ滞在期におけるプリミテイヴィスムの形成ー一《黄色いキリスト》にみる北方と初期ルネサンス美術の影響―研究者:滋賀県立近代美術館学芸員田平麻ポール・ゴーギャンが1889年に制作した《黄色いキリスト》は、彼のブルターニュ滞在期のプリミテイヴィスム的で象徴主義的な特徴を示す代表作であり、そのイメージの源泉が、彼がブルターニュの教会で見た木彫の17世紀の素朴なキリスト像にあることが指摘されてきた。ゴーギャンは、「プリミテイヴな芸術の中に、いつも栄養分を見出す」と述べているが、彼の考えるプリミテイヴ美術とは、南米やブルターニュ、オセアニア、東洋といった非西洋社会のものだけではない。そもそもプリミテイヴ美術とは、地理的に西洋から隔たった地域の美術だけではなく、盛期ルネサンス以前の西洋の美術も指し、られる語であった。ゴーギャンは、初期ルネサンスの画家、例えば、チマブーエやジオットヘ関心を持ち、タヒチ島へ移住した際にもそれらの図版を携えていた。また自由美学展への参加の際に、ベルギーの美術館を訪問しており、彼のプリミテイヴィスムの形成に、初期ルネサンスやフランドルの画家たちへの関心が果たした役割は大きいと思われるが、このことは従来の研究では全くといってよいほど見落とされてきた。例えば《黄色いキリスト》では、アントネッロ・ダ・メッシーナのキリストの傑形図-39 -
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