鹿島美術研究 年報第21号
66/112

2000年10月)や論文(『美術史』153冊2002年)となっている。などとの類似性が看取できるが、これらの画家たちからの影響を検討することによって、この作品の源泉を明らかにし、ゴーギャンのプリミテイヴィスムにおける初期ルネサンス絵画や北方美術への志向を指摘しえるであろう。ゴーギャンは素朴な風物や異国への憧憬のみを動機として制作したのではなく、造形的な簡素さと象徴主義的な喚起力に富む表現を求める過程で、プリミテイヴ美術への関心を培っていったと思われる。初期ルネサンスや北方の美術をゴーギャンや同時代の画家たちがどう受容し、作品の制作と結びつけたのかを考察するとともに、そのプリミテイヴィスム的側面についても検討し、イタリアでのプリミテイヴィスム再評価に関する研究などの成果もとりいれながら、ゴーギャン作品におけるプリミテイヴィスムの役割と成果を独自の視点から考察したい。⑪ 1920、30年代の日本における女性美術家グループの活動と展開研究者:千葉大学大学院社会文化科学研究科博士課程私は卒業論文および修士論文において太平洋戦争末期に結成された汎女性美術家団体「女流美術家奉公隊」(1943年2月結成)とその共同制作である〈大東亜戦皇国婦女皆働之図》(1944年3月完成)について論じた。戦時下における女性美術家の活動が、これまでの日本美術史において調査研究された先例は、ほとんど皆無といってよい。私は、一次史料の発掘と関係者への聞き取りおよび作品調査を行なった。その結果、同隊の活動経歴が明らかとなっただけではなく、他の同時代の男性による作品と比較して一見「特異」に見える彼女らの共同制作は、戦時下におけるジェンダー構成に根付いた作品であることが、判明した。その研究成果は、学会などにおける口頭発表(米国イェール大学アジア学部大学院生会議2000年2月、美術史学会東部例会だが、奉公隊の結成を促した土壌に関しては、検討する余地が残された。奉公隊の前段階として仮定される女性美術家の動向に、1920、30年代における女性美術家による小グループ群の出現がある。具体例として、朱葉会(1918年創立の洋画団体)、翠紅会(1924年創立の日本画団体)、女帥会(1934年創立の洋画団体)、七彩会(1935年創立の洋画団体)女性人形同人(1935年創立の人形制作団体)などが、さかんに画廊やデパートなどでグループ展を開催した。私は、上に挙げたような団体の性格や活動_ 40 -良智子

元のページ  ../index.html#66

このブックを見る