鹿島美術研究 年報第21号
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—複製版画の“非複製性”に関する考察ー一こ16世紀イタリアで制作された複製版画によって、ルネサンス美術の規範がヨーロッ16世紀イタリアにおける複製の概念を対象とする本研究は、版画史のみに留まらなより広い視野で、近代初期の美術を俯鰍する時、田村宗立の存在は、より重要性を増すと考えられる。⑭ イタリア・マニエリスム版画と人文主義研究者:国立西洋美術館研究員渡辺晋輔パ中に広まったことはつとに知られているが、そうした版画にはモティーフや構図にしばしば改変が加えられていた。つまり複製を制作して伝達することに対する姿勢が現代とは全く異なっており、単純に「複製版画」といって片付けられない問題が潜んでいる。本研究の目的は、複製版画を取り巻く当時の環境を調査することによって、なぜ複製版画に版画家の創意を加えることが許されたのかを探り、複製版画の意義を問い直すことにある。本研究は、複製版画の受容層が人文主義者達であったことに着目し、版画の制作を人文主義者たちの活動と関連させて考察したい。彼らによる版画のコレクションに関して調査し、当時の版画が有していたステータスを明らかにすると共に、彼らが記した作品記述(エクフラシス)に複製版画が果たした役割や両者の共通性について考察する。先行研究によってすでに、ヴァザーリが『芸術家列伝』を執筆するに際して複製版画を参照し、それゆえにモティーフの記述に間違いを犯している例が指摘されているが、本研究は『列伝』の中の他のエクフラシスさらには他の著述家によるものについても検証する。人文主義者たちによるエクフラシスと複製版画の作品に対する並行関係(どちらも作品を描写して伝達することを目的とし、しばしば脚色を加えた)に着目することによって、複製版画の製作の方法にエクフラシスの影響を指摘し得たらと期待している。い広がりを持ち得る。なお、申請者は2005年秋に国立西洋美術館で開催予定の『(仮称)キアロスクーロ版画展』を準備中であり、本研究の成果は、間接的にではあれ、展示やカタログに反映されるだろう。-43 -

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