鹿島美術研究 年報第21号
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20窟にみられるように木造建築を模した構造が看取され、石窟寺院への木造寺院の影な繋がりを有し、また石窟の建築構造を反映していることを踏まえて、本研究では後期窟の僧院窟に見られる天井画が窟の建築構造に関連してどのように区画構成され、また装飾意匠にもどのような変化が見られるのか、その天井画の展開の様相を明らかにすることでアジャンター後期窟の発展過程の解明に繋げることを目的とする。天井画の先行研究は文様の考察が中心である。インドに多くの仏教石窟寺院が現存するものの、天井画がアジャンターを除いて殆ど残っていない点でアジャンターの天井画は貴重な存在である。なかでも、第1• 2 • 17窟は特に保存状態が良好でその壮麗な装飾意匠に目を奪われるが、天井が柱や側壁と同様に石窟寺院の空間を支える要な要素であり、またその区画構成が石窟の列柱や付柱、梁をもとに構成されているということはほとんど意識されてこなかった。しかし、アジャンターの天井画は寺院建築の構成要素として古代インドの仏教建造物における天井の様相を窺い知ることのできる重要な遺品である。また、アジャンターの石窟寺院建築自体、第6下階・16• 響が窺える。それゆえ、石窟寺院の天井画の研究は、列柱や付柱、側壁というすべての建築構造を備えた空間の中で、また石窟の造営過程というプロセスの中で天井画を分析できるという点において有意義である。アジャンター研究は現在、説話図や尊像図を主とする壁画研究と編年研究が主流であるが、天井画という新たな分野の導入によって新たな方向性を提示できよう。また、この天井画の研究を、現在申請者が進める壁画研究とともにアジャンター後期窟の編年問題に関連づけられればと考えている。⑲戦模様の驚物研究者:北海道東海大学助教授戦争画についての研究は従来では、藤田嗣治・横山大観などの絵に関するものが主であったが、近年では雑誌の挿し絵、表紙絵など、より広い範囲での研究が行われるようになった。本研究ではその範囲をさらに広げて着物の文様となった戦争画を対象とする。戦争と軍事モティーフを対象とする着物の存在は、染織の分野では「面白柄」という風変わりな文様の中の一分野として知られ、また、いわゆるミリタリーマニアによるコレクションの対象ともなっているが、美術史の分野からのアプローチは寡聞乾淑子-47

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