⑳ ロッソ・フィオレンティーノ(1494-1540)の作品と16世紀フランスのユマニスムのかむことができよう。さらには、西アジアやヨーロッパなど他地域の青銅器との比較によって、この技術がどのようにもたらされたかを、検討することは興味深いテーマと思われる。関わりについて研究者:滋賀県立近代美術館主任学芸員占部敏子ロッソ・フィオレンティーノの作品は、宗教画であれ、異教的な神話画であれ、その構想が大変独創的で、創意に富むため、図像学的に解明できない部分がかなり残されている。また、様式的に見ても、遠近法を無視したかのように人物を上下に積み上げていく構図、重量感の欠如したような人体表現、マネキン人形のような無表情な人物像、現実離れした色彩表現等々、ルネサンスの画家たちが遵守しだ法則や論理に反する不合理で、不自然な表現が目立つ。近年の研究は、ロッソの特異な図像の先例となったと考えられる作例ーミケランジェロやドナテッロの作品等ーを探し出し、ロッソがそれらを利用したことを明らかにしている。しかし、問題は、ロッソが他の作品から借用したモチーフを、どのようにして別のコンテクストに組み込んだかにある。ロッソの場合、人物像やモチーフの組合わせが奇妙であり、画面構成の論理に矛盾や飛躍がある。したがって、単に形態上の類似点を探るだけでは限界がある。これを解明するためには、ロッソが参照したと思われる文学、歴史、哲学などの研究が必要であろう。近年、コレージュ・ド・フランスのマルク・フマローリ教授が、ロッソの芸術とギリシア文学、とりわけ、ピンダロスの祝勝歌集を結びつける大変興味深い論文を発表した。それによると、単にモチーフの引用だけでなく、ロッソの作品の構造そのものが、ピンダロスの詩の構造と共通する面をもっているという。ロッソがギリシア語を解したとは考えにくいが、ラテン語訳で読んだ可能性はある。そこでピンダロスに限らず、古典研究とロッソの作品の接点を探り、ロッソの独創的な図像表現や画面構成の謎を解明する手口を探るのが本研究の目的である。-49-
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