—近代日本における「画エ」の社会的位置・役割の解明に向けて一一一⑫住吉派におけるやまと絵鑑定について_松浦家との関係を中心に_研究者:鹿児島大学教育学部助教授下原美保これまでの住吉派研究では、御用絵師としての絵画制作活動にのみ焦点が当てられてきた。しかし、廣行以降の住吉派は「やまと絵鑑定の家」としても広く認知されている。なぜなら、住吉派では土佐派同様、やまと絵に関する情報や粉本類が、代々積されてきたからである。また、多くの鑑定依頼を受けることによって、やまと絵関連の情報が、同派に集中したことも見逃せない事実である。調査の要約でも述べた通り、同派に蓄積されたやまと絵関連の情報は、日本美術史形成期に大きな影響を与えている。本研究は、住吉派が期待されていた「やまと絵鑑定の家」としての役割を確認すると同時に、近代に形成された「やまと絵観」の情報源を知る上でも非常に価値ある研究といえよう。従来、住吉派がやまと絵の鑑定を行ってきた状況については、「住吉家鑑定控」(東京芸術大学蔵)や作品に直接記された極書でしか確認できなかった。しかし、松浦家の場合、鑑定の状況が、『新増書目』(松浦資料博物館蔵未刊行)から具体的に把据でき、さらには、松浦家伝来の作品の中にも、鑑定した後、静山が住吉派に模写させた作品等が多数確認できる。本研究では、松浦史料博物館、並びに他機関に現存する住吉・板谷派関連の作品や資料を詳細に調査し、松浦家が住吉家に依頼した鑑定の経緯、鑑定した作品のジャンル、鑑定内容等を具体的に解明していきたい。また、松浦家伝来の資料には、松平定信の賛を伴う作品が数点確認できる。定信も「集古十種」編纂の際、住吉廣行を起用するなど、住吉派との関わりも深い。静山は、文事面において定信を憧憬していたと言われているが、その関係を示唆する資料についても調査を行う予定である。⑳ 開拓使に雇われた画工の基礎的研究研究者:北海道開拓記念館学芸部学芸員三浦泰之北海道美術史のなかで近代初期の「美術」をめぐる状況についての研究蓄積は極め-50 -
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