鹿島美術研究 年報第21号
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1337)とされているが、申請者は、様式的にジョットの後継者達に帰属される現存すが従来顧みられず、歴史的資料としての重要性が注目されたのは近年であったことが挙げられる。また、その壁面の大半は複雑な占星術主題をもつ表現であるため、統一的な主題解釈が困難であったことも一因である。西洋美術史研究、とりわけ中世・ルネサンス期において占星術思想の理解は不可欠であり、ルネサンス期における芸術作品に表された占星術思想の事例と、君主など依頼主の思惟を解明したすぐれた研究がある。しかしながらその作品が配置された場所や、描かれたその空間全体の特性まで踏み込んで考察した研究は少ない。ましてやイタリアの特徴的な国家形態であるコムーネそのものの表象、特に14世紀の公共建築の事例に注目した研究はほとんどなされていないといってもにおいて占星術思想の担った社会的な役割を明らかにするという意味でも重要な意味を持つ。このサローネの図像プログラムを実際に制作した人物はジョット(1267?るサローネの壁画表現を、14世紀初頭より北イタリア各地に伝播したジョット本人の芸術の原型を伝えるものとして解釈する新知見を提出しており、これを当初の図像プログラム全般の解明の糸口となる可能性を予見している。さらに、この解釈を支持する文献史料、イメージ資料を加えることによって、サローネの壁画表現自体が、同時代のコムーネの普遍的な「自己表象」でもあるとする申請者の仮説を立証することができる。⑳ 西域壁画の図像学的研究研究者:早稲田大学非常勤講師井上仏教美術の伝播経路に関しては既に様々な考証が行われており、それぞれ異なる経路を持った複数のルートが明らかになってきている。しかしながら、長く複雑な伝播の過程で仏教図像がどのように変化してきたかについては不明な点が多く、今後に残された課題は多いといえる。様々な図像の具体的な源流と本来の意味を問う試みは、西域美術をより正確に捉えるためのいわば基礎的な研究であり、仏教美術史のみならずシルクロードにおける文化交流の実態やその時代的な変遷など、他分野の研究にも有用となろう。仏教美術の各種図像を経典の内容に即して読み解く試みは、美術史学の重要なテーはない。サローネの壁画装飾の分析は、14世紀のコムーネ豪-61 -

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