的で、特に「Au~enwohnraum(屋外住空間)」という概念によって住宅と周囲の環境⑫ ブルーノ・タウト(1880-1938)の建築の変貌ドイツ・日本・トルコ研究者:大阪大学大学院文学研究科博士後期課程松友知香子これまでのブルーノ・タウト研究は、彼のユートピア的思想に主眼が置かれてきた。従って、バウハウスを代表する近代建築の成立における思想的先駆者として、タウトの意義がしばしば語られてきた。日本では、タウトが残した一連の著作の研究が多く、思想家としてのタウト研究がなされていた。しかしながら、タウトは、画家を志していたこともあり、とりわけ、色彩には並々ならぬ関心を持っていた。タウトは同時期のデ・ステイル運動とは異なる独自の色彩論を建築において確立しようとしており、特に1927年に建てられた自邸に具体的に示されている。私は修士論文においてこの自邸の現地調査とタウトの著作を検討し、自邸の色彩と建築構造及び当時の社会思想との関係についてまとめた。修士論文から今後のタウト研究は、ドイツだけでなく、より広い視座から論じる必要があることに気づいた。その1つは日本、トルコヘの亡命る東洋への憧憬である。日本・トルコの建築文化を吸収することで、タウトの建築や色彩がいかに変容するのか、タウトの思想と建築作品を研究対象にすることによって検証したい。またタウトは田園都市運動に参加して以来、人間にとつで快適な住空間とは、何かという問題意識を持ち、ジードルング・住宅を手掛けてきた。タウトは近代建築に対しては批判との関係性を重視していた。この概念の成立と色彩との関連性についても考察していきたい。これらの研究からタウトの新しい側面が補われ、近代建築史におけるタウトの意義がより深いものになるのではないかと思う。タウトの建築とは「西欧的近代と日本的・トルコ的要素の融合した東西の掛け橋」と言われる。現代の政治的・宗教的な状況を振り返るとき、タウトの果たした役割を総合的に検証することの今日的意義は極めて高いのではないだろうか。70
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