鹿島美術研究 年報第22号
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―15―② 2004年度助成金贈呈式③ 研究発表会らかにした。子規の旧蔵書を伝える「正岡子規文庫」(法政大学図書館蔵)を精査し、その画譜類が多く明治の再摺本であるという事実を突き止める。それらは当然のことながら初版の微妙な味わいを欠いているが、子規はその本質を見抜いていることが指摘される。つぎに子規における絵画鑑賞の特質が考察される。子規の鑑賞対象は大半を画譜が占めるが、それは病弱であったためばかりでなく、手に採って鑑賞するという近世的な鑑賞の伝統を継承するものであった。また、改変を加えられた再摺本からは鑑賞上の限界が生まれる場合もあったこと、画譜の愛好と俳句の美意識が軌を一にすること、みずからの経験や記憶に付きあわせて画譜を味わっていること、江戸文人たちの「自娯」をさらに先鋭化させて生命の実感を充実させていこうとしていた態度など、鋭い指摘も強く印象に残る。それは近世以前の身体的な鑑賞形態を受け継ぎながら、個人的な作品との交わりを押し進める近代的な鑑賞者の誕生をも告げていると結論づけられる。以上、授賞されたお二人に対し心からお喜びを申し上げて報告を終わりとする。2004年度「美術に関する調査研究」助成金贈呈式は、第11回鹿島美術財団賞授賞式に引き続いて行われ、選考委員を代表して、高階秀爾・大原美術館館長から2004年1月23日の助成者選考委員会における選考経過について説明があった後、原常務理事より助成金が贈呈された。本年度の研究発表会は5月14日鹿島KIビル大会議室において第11回鹿島美術財団賞授賞式ならびに2004年度「美術に関する調査研究」助成者への助成金贈呈式に引き続いて、財団賞受賞者とそれに次ぐ優秀者である計5名の研究者により次の要旨の発表が行われた。

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