―18―14世紀前半に制作されたラテン語祈祷書や『歴史物語聖書』などにも継承されたこと「『ジャズ』―作品分析の方法論をめぐって―」ティナのアッコンで人気を博した仏語版『世界年代記』や『エルサレムのラテン王国史』などの写本挿絵を主要なレパートリーとする挿絵工房との関わりが指摘されてきた。本研究では、『十三世紀フランス語聖書』の挿絵画家が、こうした世俗写本だけではなく、伝統的なラテン語聖書や祈祷書の制作にも関与し、その挿絵図像を新興の仏語版聖書へと継承させていった点にも注意を促したい。このような画家のレパートリーの広がりに加え、『十三世紀フランス語聖書』の挿絵図像の伝播・交流を考察する上で興味深いのは、画家の芸術的出自に関わる地域的な図像レパートリーである。本発表では、1280年−90年代イングランドで制作された作例の旧約・歴代誌上の冒頭に描かれた特異な「エッサイの樹」図像を取り上げ、この図像の源泉が、写本挿絵芸術の分野において当時イングランドと密接な関係にあった英仏海峡対岸のフランドル地方の同時代の作例に求められること、さらに同地域でを指摘する。『十三世紀フランス語聖書』の挿絵は、様式の地域的な多様性と図像のローカルな特異性を反映しつつ、比較的限られた期間に散発的ではあるが広範囲に伝播したという点に、その特質を帰すことができる。後発の『歴史物語聖書』がパリという一大拠点を地盤に継続的な発展の過程を辿ったのとは異なる点でも、『十三世紀フランス語聖書』は13世紀後半における聖書図像の複雑かつ豊かな展開の一端を垣間見させてくれると言えよう。発表者:関西外国語大学 国際言語学部 助教授 大久保 恭 子1947年9月30日に出版されたアンリ・マチスによる『ジャズ』は、企画から実現にまで7年近くをかけた20枚の図版と手書きの文章とからなる「書物」である。これまでこの作品の最大の特質は、20枚の図像(オリジナル・マケット)が切り紙で制作されたことにあるとされてきた。わけてもそれが、絵画の制作手順に比して甚だしい変化を内包していたことが注目され、切り紙絵においてマチスは「同一人物の中での素描と色
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