鹿島美術研究 年報第22号
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―34―研 究 者:成城大学大学院 文学研究科 博士課程後期  伊 丹 陽 子ヴェネツィア美術の研究において、セバスティアーノはこれまでジョルジョーネとティツィアーノの影で、その重要性にもかかわらずあまり顧みられていない。ヴィテルボの《ピエタ》も大変興味深い作品であるが、ミケランジェロの威光のもとで、セバスティアーノの役割がしばしばあいまいに捉えられることが多かった。また、この《ピエタ》についての詳細な研究は、C・バルビエーリ(1999年)の現在唯一のヴィテルボの《ピエタ》に関する研究論文においてのみである。バルビエーリ氏は注文主の思想傾向から聖母マリアの男性的な肉体表現、聖母とキリストの離された配置と夜景の意味解釈を提示している点で意義があるが、全体的に意味解釈にかたよる傾向が多少みられ、形態の源泉や夜景表現のさらなる探求が必要であると思われる。実際、バルビエーリ氏は、2人物の離れた配置についての意味解釈のみにとどまったが、申請者は、この構図と形態の視覚的源泉が壁面墓碑彫刻にあると考えている。本調査研究は、ヴィテルボの《ピエタ》作品の分析、巨匠ミケランジェロとの共同制作についての考察、およびミケランジェロ、ラファエッロ芸術との比較によって、セバスティアーノの芸術性、独自性を明らかにすることを目的とする。そのために、次の6項目についての調査研究を進めていく。Ⅰ.図像の特異性、Ⅱ.暗示的な夜景の図像とその意味、Ⅲ.注文主の信仰と思想、Ⅳ.礼拝堂におけるピエタ主題、Ⅴ.セバスティアーノとミケランジェロ、Ⅵ.セバスティアーノとラファエッロ。これまで、ミケランジェロ作品との部分的な形態の類似がいくつか指摘されたが、特に、ヴェネツィア、ローマに残る彫刻、建築、あるいは版画、素描、絵画作品の詳細な観察と比較検討によって、新たな造形的源泉を見出すことができるであろう。また、バルビエーリ氏のアウグスティヌス主義による解釈の再検討と異なる視点からの探求によって、新たな解釈の可能性があり意義ある研究になると思われる。以上、ヴィテルボの《ピエタ》に関する調査研究をまとめる邦文の研究論文は、申請者のものが初めてであり、この点においても本調査研究の実施に価値を見出せるはずである。② セバスティアーノ・デル・ピオンボのヴィテルボの《ピエタ》

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