―39―容する側に選択的な意図が働いていることが具体的な事例の検討によって明らかにされつつある。日本で受容される際に、イメージはときに単純化したりする一方で、増殖もし、変容の中で中国では見られなかった新たなものを生み出すこともある。その実態は多様で複雑である。こうした実態の解明には、日・中双方向からの比較、検討が不可欠になる。中国絵画に関していえば、日本に現存する作例のみならず、探幽縮図等を参照しつつ、海外所在の作例も視野に入れて日本にあった中国画を復元的に見定めていくことも重要である。本研究では、十七世紀日本の狩野派等で描かれた中国主題の絵画に焦点をあて、多様な中国像の位相を確認し、そのイメージ・ソースを探求、比較することで、変容の過程を明らかにする。江戸時代徳川体制の確立期に相当する17世紀日本では、中国絵画はそれまでの権威的な存在として東山御物が君臨する一方、新たに多くの中国絵画が流入した。既に獲得された中国像に重層的に新たなイメージが重なっていく。その様相が明らかにされれば、当時の日本画壇における伝統・規範の有り方もより明確になることが期待できよう。研 究 者:愛知県美術館 学芸員 馬 渕 美 帆この研究は、記号論の手法を用いて、広い意味での「見立て絵」の多様な構造を理論的に分析し、整理して把握しようとするものである。本研究では、一見ごく多様で体系的には把握しがたいかに見える「見立て絵」作品の構造について、「言説」と「形象」という概念を用いて考察し、それぞれの「見立て絵」がどのような仕組みを持っているのかを理論的に分析する。それによって、「見立て絵」と呼べる作品の構造を分類・整理して示し、改めてその多様性を明らかにする。それとともに、それらに共通する要素についても検討し、「見立て絵」が本質的にはどのような仕組みによって「見立て絵」たりえているのかについても新たな考察を加える。理論的な研究はともすると理論が作品に先行しがちであるが、この研究では、あくでも個々の作品の観察に即して考察を進めることに注意を払う。理論面から広い意味での「見立て絵」の構造を総合的に扱う研究は本研究が初めて⑨「見立て絵」の記号論的研究
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