―40―であり、「見立て絵」作品の全体を広い観点から捉えるのに有効であると思われる。また、「見立て絵」の基本的な構造が理論的に整理されて示されることは、今後江戸時代の浮世絵等を含む個別の作品研究がなされるに当たっても有益であると考えられる。また、本研究では「見立て絵」について上記のような考察を行った上で、それらが好まれ、制作された各時代の文化的背景についても検討を及ぼす予定である。対象とする作品は、中世のものをはじめ、近世初期風俗画や、浮世絵を含む近世諸家のものが中心となるため、特にそれらの作品研究や、近世諸家の作家研究にも資するところが大きいと考えられる。また、研究対象の一つとして、これまでほとんど紹介されたことのない愛知県美術館・木村定三コレクションの近世絵画作品も取り上げる。研 究 者:東京芸術大学 美術学部附属古美術研究施設 助手 熊 田 由美子本研究は近代における仏像受容史・批評史の構想を前提にして行われている。明治時代初頭は、礼拝対象としての仏像が美的鑑賞の対象、歴史認識の対象となった大きな歴史的転換点であり、先駆的研究者たちは、年代判定、美的判断の尺度そのものを形成しつつ、最初の文化財保護制度をつくりあげていった。当時の調査記録類には、そうした知的葛藤のあとががうかがえるが、記述自体は概して簡略なものであり、実際の作品との照合や各記録の記述の矛盾などを精細に検討することでしか明らかにしえないことも多い。個々の作品の年代観や評価内容に踏み込んだそうした研究は、近代美術史の研究者だけではなく、古文化財を専門とする研究者の参画をも要する分野と考えている。仏教彫刻史研究を専門とする立場から、私はさきに岡倉天心の調査記録および美術史論を対象に、現存作品との照合に留意しつつ、その歴史観、作品観の生成と変容をあとづける研究を行ってきた(拙論「岡倉天心の古代彫刻論」、「岡倉天心の鎌倉彫刻論」参照)。そのなかで『稿本日本帝国美術略史』と天心の美術史観との相異について明らかにし、また一般に、天心の代表的な「日本美術史論」とされる論稿が、中国旅行以前の限られた時期の見方にすぎず、その後の作品の調査体験に即して、次々と年代観や作品観を構築しなおし、変化させていること、また、近年「古代偏重」を指⑩ 六角紫水「古社寺巡礼記」に関する研究
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