鹿島美術研究 年報第22号
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―41―摘される天心ではあるが、調査記録類の作品評価を詳細にたどれば、天平後期以上に平安初期や鎌倉初期彫刻の作品評価が高いこと等々、近年の制度論的研究では見落とされてきたいくつかの新知見を得ることができた。本研究では、天心の指導のもと、次代の研究者・制作者によって行われた古社寺調査記録を対象にすることで、当時の、地方における古文化財に対する研究・評価のありようを、さらに深めることができると考える。研 究 者:金沢美術工芸大学 美術工芸研究科 博士後期課程金沢湯涌夢二館 学芸員              橋 律 子本研究は「大衆」という視点から竹久夢二の業績の再評価を行うものである。夢二式美人画で知られる竹久夢二であるが、水彩や写真、絵はがき、ポスター、装丁などその活動分野は多岐にわたる。美人画で一世を風靡しながらも、そこに留まることを知らず、新しいメディアに積極的に挑み、どのジャンルにおいても大衆の支持を獲得する竹久夢二の活動を追うことが、すなわち、大正期の文化的・美術的な状況を検証することにつながる。次代を代表する画家・竹久夢二作品の分析を行いながら、「大衆」の美術受容の変遷および方法論について研究していきたい。本研究の意義は、江戸期から明治・大正にかけて見世物など娯楽としての美術受容研究と、西欧文化からの大量の情報が急速に流入することによって変革期を迎える近代美術研究の“橋渡し”としての役割である。見世物など美術的な娯楽に日常的に楽しんでいた大衆が雑誌や絵はがき、写真などの新しいメディアによって文化的素養を深め、文展など各地で行われるアカデミックな展覧会に殺到する。そして広告などのグラフィックや、デパートや文化住宅など美術的価値を重視した文化を享受する支持体となって文化の発展に寄付していくという連鎖を紐解くことになるだろう。また、竹久夢二は新しいメディアを積極的に利用し、成功した画家であり、大衆の求める新しい表現と画家のオリジナリティとの間に接点を見出し、イラストレーションやグラフィック・デザインという新しいジャンルの創出に大きく関わった。デザイン研究、特に遅れているイラストレーション研究についても、本研究が新たな地平を与えることになることを期待している。⑪大衆文化の成立と竹久夢二 ――大正期における大衆美術受容――

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