―43―研 究 者:実践女子大学 文学部 助手 濱 住 真 有これまでの池玉瀾研究においては、夫である偉大な大雅から絵を学んだ、理解ある良き妻として語られ、大雅の大胆さには及ばない筆致の弱さ、或いは柔らかさ、女性らしさということが話題となることが主流であり、作品を網羅的に収集、整理し、画業全体を見渡した上で、その特色を分析しようという研究は、未だ見受けられないように思われる。近年の、パトリシア・フィスター氏の女性画家研究の好著においてさえも、玉瀾の画業と伝記の一部を紹介するに止まるものであり、かつて吉沢忠氏が玉瀾の作品に大雅20代の影響はあまり見られず30代以後の影響が強いことを指摘され、鈴木進氏が池玉瀾研究における、作品の年代的整理の重要性を指摘されたが、それらの具体的な検証は今後の研究に残された課題であるといえよう。本研究においては、玉瀾の画業全体を捉えるための更なる作品収集と年代整理を行い、池玉瀾の画業全体を捉えた上で、その特色を分析するところに、研究意義があるといえる。また、本研究において収集された作品の一覧及び画像データベースは、今後の池玉瀾研究にとっても、資料的に利用価値の高いものになると期待される。さて、今日まで、玉瀾の作品の年代的な整理がなされなかったその理由を考えてみると、大雅の画業があまりにも偉大であるとされたために、大雅研究における付属的研究に止まったということもできるかもしれないが、むしろ玉瀾の作品に、年記のある作品を見出し難いということこそが、その一因となっているのではないだろうか。しかし、いうまでもなく大雅の作品の年代的整理はこれまで盛んに行われてきており、今日ほぼ一通りの研究、評価が提出されている。また、大雅と同画題の作品を残していることや、二人で形式を合わせた作品も残されていることからは、二者の作品の、比較分析による年代整理が可能な状況にあるものと考えられる。更に、玉瀾の作品において特徴的な皴法や明確な筆致、パターン化された樹木の表現、文人画と和歌との融合が見られる扇面などを手がかりとすれば、玉瀾作品の特質やその独自性をも見出せるのではないかと考えている。⑬ 池玉瀾研究
元のページ ../index.html#60