鹿島美術研究 年報第22号
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―45―Johnson, The Paintings of Eugéne Delacroix. A Critical Catalogue.The Public Decorationsand their sketches, Oxford, vol.V and VI, 1989)などがあり、ほぼ包括的な研究がなされ(Michele Hannoosh, Painting and the Journal of Eugéne Delacroix,Princeton, 1995.)。研 究 者:東北大学大学院 文学研究科 博士課程後期  柳 原 一 徳これまで、ドラクロワの壁画にかんして、M・セリュラスによる研究(M. S′erullaz,Les Peinture Murales de Delacroix, Paris, 1963)、L・ジョンソンによる作品カタログ(L.てきたと言える。前者は全壁画作品にまつわる経緯を、ドラクロワの書簡や日記、古文書、当時の批評などから再構成した。後者はドラクロワの作品カタログにおいて、壁画作品に関する文献や、準備素描や習作にかんする情報を整理している。これらはともに重要性を保持し続けているが、同時代の他の画家や歴史状況などの研究が進んでいる今日、作品解釈のうえで彼らの研究が更新されなければならないことは言うまでもない。とりわけ、個別的な問題についてはまだまだ未解決の部分が見られ、ドラクロワの伝統に対する考えや芸術観を知るためには取り組むべき問題が多くある。そのような状況のなかで、すでに新たな見解を発表した研究者もいる。たとえば、M・ハンヌーシュは、日記に見られるドラクロワの思想との関連で壁画作品を論じたしかし、未だに十分に光が当てられていないのは、伝統を無視することができない壁画という媒体にあらわれる友人たちの存在が重要な位置を占めていることは、いくつかの研究によって示されているが、壁画作品においては十分に展開されていない。私の研究目的は、ドラクロワの同時代性と、そこから浮かび上がる伝統へのまなざしを跡付けるために、壁画と友人たちの関わりを論ずることである。そのために、ドラクロワの日記や書簡の再検討によって、彼の友人たちのネットワーク全体を把握し、当時の人間関係のダイナミズムを作品解釈に反映させたい。これは、ドラクロワの壁画作品を伝統と同時代性のはざまにあるものとして捉えようとする試みであり、フランス近代絵画史を問い直すという視野に立ったものである。⑮ ドラクロワの壁画研究

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