鹿島美術研究 年報第22号
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―46―研 究 者:浦添市教育委員会 文化部長  安 里   進本研究は、琉球王府の漆芸技法の具体的解明と技法復元を目指している。琉球漆器研究は、荒川・徳川両氏の研究によって飛躍的に進展した。両氏の研究成果の一つは、琉球漆器が堆錦・沈金・螺鈿・箔絵・堆彩漆など多様な技法で製作されたことを明らかにしたことである。この研究によって、琉球王国時代の漆芸技法の具体的な解明が新たな研究課題となった。安里は、琉球王国時代の漆芸技法を、貝摺奉行所の業務仕様書である「御道具図并入目科帳」という第一級史料の分析を通して、その使用材料とその数量を具体的に解明する作業を行ってきた。今回の研究は、漆芸技術指導者である糸数が、同文書に登場する漆器を解明した技法で実際に製作・検証することに意義がある。第一級史料の分析成果と製作実験による検証作業は、琉球王国時代の漆芸技法を、確実な史料と実験研究で裏付けて具体的な技法として復元することである。この技法復元研究は、学術的価値だけでなく、琉球漆器の文化財的修復技術や、現代の漆器製作に応用可能な形で復活させることでもあり、そこにもう一つの価値があると考える。復元された琉球王国時代の漆芸技術が、厳しい経営環境にある伝統的な琉球漆器産業に取り入れられることにより、伝統産業振興に果たす効果は大きいと考えている。例えば、現在では忘れ去られた漆下地の技法に、琉球の赤瓦を粉砕した「瓦地之粉」があるが、この技法は漆器を堅牢にするだけでなく、沖縄の青い空と赤瓦というプラスイメージと結びついて琉球漆器のイメージを大きく革新すると期待できる。この研究に沖縄県工芸指導所の糸数が参加する意義のひとつはここにある。復元された漆芸技術は、沖縄県工芸指導所での技術研修などを通して、普及させていきたい。――ローマ人によるギリシア美術のパトロネージ――研 究 者:愛知大学 文学部、大阪成蹊大学、京都造形芸術大学 非常勤講師ヘレニズム後期からローマ帝政期にかけて大量生産された装飾彫刻の中で、「マン芳 賀 京 子⑯ 琉球王国漆芸技法復元の実証的研究⑰ 古代ローマ世界の「マント式ヘルマ柱」

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