―48―直接的意義をもつものと考える。また、これまで『一遍聖絵』に代表されている時宗の造形美術に関し新たな分野への認識評価を生むという観点にも価値があると考える。――アジアとラテン・アメリカを結ぶ東洋陶磁の流れ――研 究 者:町田市立博物館 嘱託 宮 田 絵津子現在、新大陸の歴史や新大陸とアジアを結ぶ歴史は、統治に関する政治的文書、宣教師達による手紙等の限られた情報によって断片的に描かれており、歴史を時間のみならず、空間的にとらえて復元するには十分とは言えない。本研究は、16世紀から18世紀までの間にマニラを出発しアカプルコへ渡った陶磁器という製品を対象に調査することによってガレオン貿易にともなって出現する商業活動、それを支える社会を明らかにすることを目的とする。本調査では、奢侈品として輸入された陶磁器のメキシコでの分布と年代に焦点をあて、当時のメキシコの中での富の分布からみる社会構造およびその変遷、流通経路からみた商業活動の実像を解明していく。こうした研究は、文献だけでは掴みきれない社会の細部や貿易活動の実際の構造を描き出すといったより多面的な歴史復元を可能にするという点で非常に重要である。そして同時にヨーロッパにみられる陶磁器との比較によって明らかになる市場の傾向の違いや共通する部分をみていくことにより、メキシコを経由してスペインに運ばれていった陶磁器があったのかどうかという点についても本調査で検証したい。これによってスペインを経由して、新大陸がヨーロッパ世界と商業的にリンクしていたのかどうかという点を解明できるのではないかと考えている。ヨーロッパ市場との関係が陶磁器の流れを通じて見出せた場合、そこに介在する商人、貿易の構造について解明し、今までスペインからの一方的な搾取と文化の受容というイメージしか持っていなかった新大陸の歴史にアジアとヨーロッパを結ぶ拠点の一つという新たな側面を見出すことを視野に入れている。⑲ 陶磁貿易における太平洋ルート
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