―50―7ジュゼペ・デ・リベーラ(1591−1652)とスペインにおける彼のパトロネージ8フィリッポ・リッピによる受胎告知図の研究ーサン・ロレンツォ作品を中心にー研 究 者:ニューヨーク大学大学院 美術研究所 博士課程東京芸術大学大学院 美術研究科 博士後期課程 川 瀬 佑 介17世紀スペインの美術史を、ベラスケス、スルバラン、ムリーリョといった自国の画家の制作活動だけでなく、ティツィアーノ、ヴェロネーゼ、ルーベンスら西欧の大画家の作品を熱心に買い集めたパトロンたちの蒐集活動という観点から考察する試みは近年国際的に盛んに行われている。そうした研究の結果、宮廷を舞台とした国外の芸術家とベラスケスら一部の宮廷画家の活動と、宗教施設からの注文を主とした地方都市の画家の活動に加え、一部の貴族や富裕階級による私的なコレクションの形成という三つの側面が見られることが指摘されている。本研究の意義は、リベーラの画業をコレクショニズムの観点から論じる初の本格的な試みであることに見出すことが出来る。上述の三つの領域すべてに作品を見出すことの出来るリベーラは17世紀スペインにおいて極めて稀な存在であり、その研究はスペインにおけるコレクショニズムの一側面を明らかにするものである。リベーラの作品は1620年代には数多くスペインに持ち込まれ、高い評価を得ていたが、スペインの画家に対する影響の波及は1640年代まで具体化しない。17世紀の財産目録に見られる作品をリスト化し、その分布を分析し、名声の波及と画風の浸透の間の時差とその要因を適切に把握することが、本研究のひとつの目的である。そして、第二には、スペイン国内におけるリベーラ作品の受容が画家の制作活動とどのように関わっていたのかを解明する。画家の様式の展開は画題の選択や注文主の意向等に沿って柔軟に進んでいたことを示したい。また第三には、現代に至るまでのスペイン美術史の枠組みの形成過程において、リベーラに対する評価がどのように変遷したのかについても、理論書の解読から考察を加える。研 究 者:山口県立美術館 学芸員 剱 持 あずさサン・ロレンツォ聖堂《受胎告知》については、エイムス=ルイスの論考(1990)、メルツェニッヒの論考(1997)などが主要な個別研究としてあげられる。これらは、
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