鹿島美術研究 年報第22号
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―53―;菅公イメージの変容と系譜「中央」の関係についての考察を深める契機にもなると思われる。て情報を整理することで、戦後の岩手県内で展開した各種の活動の実態をより明確にしたいと考えている。その成果を共有することで、関連する各作家個々の歴史的評価を進めることが可能になるだろう。また、これまでほとんど言及されていない東北地方の具体的事例を紹介することによって、日本の戦後美術史研究における「地方」と――天神縁起における在地縁起(ご当地説話)とその形象化――研 究 者:北海道大学大学院 文学研究科 助教授  鈴 木 幸 人「菅公イメージ」の変容と系譜を考察する本研究の前提となる天神信仰は、菅原道真(845〜903、平安時代の文人政治家)を祭神として、平安時代から近代現代にいたるまで、その神格を変容させ、在地縁起の成立に見られる各地に特色ある信仰形態を生み出しながら、その受容層をも変化また拡大させて、宗教史的にも文化史、美術史的にも大きな影響力を保ち続けてきた。天神信仰における美術についても、個別のジャンルの研究は様々な角度から詳細な研究がなされてきたが、その総合的研究は、近年ようやく緒に就いたところと言えよう。そこで天神信仰の大きな特色である「神格の変容」と「在地縁起」に注目し、そこに形象化される「菅公イメージ」を考察の中心に据えることで、これまでの先行研究を受けて、より広い視野から天神信仰の美術の研究に取り組み、総合的視点の獲得をめざすとともに、信仰史研究にも確実な視座を提供することを見据え、複雑多岐にわたる天神信仰の様相の系統立てを行おうとするものである。一方で、本研究は、美術史学の基本である作品分析に基点を置くが、様々な作品(絵巻、浮世絵、絵本、芸能等)をいずれも「菅公イメージ」として同一の基準を持って扱い、それに伴って、国文学、民俗学、芸能史研究等隣接領域との接近融合をはかることになる。対象作品の範囲と研究領域の両次元でジャンルを超える研究方法は、今後求められるべき新たな考察態度を試みることとなる。また、本研究は「菅公イメージ」に代表される天神信仰の美術をその直接の対象とするが、当然、その先には、宗教美術の世俗化の問題を視野に入れており、日本における宗教の世俗化の傾向研究について適切なサンプルを提供できるだろう。以上、本

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