―54―岡倉天心とボストン ――ガードナー美術館の中国室を中心とした調査研究――研究は基本的かつ今後への広がりをもつ研究であると確信する。研 究 者:お茶の水女子大学大学院 人間文化研究科 博士後期課程東西の文化交流において岡倉天心はどのような役割を果たしたのか、近年の岡倉天心研究をふまえて本研究が立脚点とするのは、岡倉がボストンに滞在していた期間、すなわち1904年の渡米から1913年の死に至るまでの約十年間、彼と彼を支援したボストンを拠点とする人々との交流を重視して、彼がボストン美術館をはじめ欧米で行ったさまざまな活動の意義を積極的に見出すことである。岡倉とフェノロサとの関係は周知であるが、フェノロサの後任としてボストン美術館に勤務した岡倉を支援したのは、ボストン美術館理事ビゲロウや画家ジョン・ラファージ、そしてガードナー夫人などであった。そのため岡倉がボストンにおいて行った様々な活動を調査し、その意義を考察するにあたって、岡倉と彼らとの交流に注目するのである。しかしながら、ビゲロウ、ラファージ、ガードナー夫人などのアメリカ人と岡倉との交流に関する研究は、まだ端緒についたばかりで研究者が使用できる史料も限られている。そのため今回ガードナー美術館による中国室の復元は、岡倉とガードナー夫人との交流に新たなる発見と価値を見出す可能性を有している。さらにこのプロジェクトは20世紀初頭にアメリカ人が私設した「東洋」美術展示室から散逸したコレクションを詳らかにし、当時の展示室の復元を試みるという点においても、美術史に寄与するところが大きいと考える。責任者のChong氏によれば、美術館には岡倉と夫人の交流に関する未公開史料が大量にあり、中国室に関する史料に限定しても大量の写真と展示品の目録数点が現存するという。Chong氏は申請者が調査に入ればおそらくもっと多くの史料や研究材料が発見されるだろうと期待を述べている。今後ボストンにおける岡倉天心研究の発展のために、ガードナー美術館が所有する未整理の資料を長期的な展望を以て調査することが必要になる。その第一歩として2005年度は、まず散逸した中国室のコレクションの復元を中心に調査したいと考える。ガードナー夫人が設置した中国室の実態を可能な限り明らかにすることを通して、岡倉と夫人との交流を再考し、ボストンにおいて岡倉がいかにして「東洋」の美術や文化を紹介していっ清 水 恵美子
元のページ ../index.html#71